マスタS
「あとどれくらい生きられるんだ?」
いつになく深刻な顔した隣人が、重々しく口にするから。
「…おまえよりは早く逝くと思うけど…?」
寝起きの所為だけでなく重々しい頭で余命について考えた。
「なぁ憎まれっ子世に憚るって知ってるか?」
おまえなら大丈夫だよ、と励ましてんのか貶してんのか分からないそれに笑って。
「佳人薄命って知らないのか?」
教えてやろうか、と足した傍から、誰が佳人だ、と苦笑が返る。
「なんだよ、元気じゃねーか」
焦って損した、と息を吐いた友人がネクタイを緩めるのを見送って枕元の携帯を開く。
こいつにしては早すぎる帰宅時間に苦笑した。
「なに、アカイト?」
大丈夫だけどちょっと寝かせて、って言い方は、今思えば多少矛盾していたかもしれない。
告げてからついさっきまでリビングと寝室をそわそわと往復していた気配がしたけど。
眠ってる間に隣宅へと行ったらしい。どうりで静かだったわけだ。
「今度こそあいつ死ぬかもしれない、って」
アカイトに泣き付かれたカイトから、泣き付かれたらしい友人に笑い返そうとして咳き込んだ。
「熱は?」
たぶん無いと答えて直ぐ、測れよ、と呆れた顔をされる。
「つーかおまえ袖あんの着ろよあほか」
薬は?飯は?医者は?となんだか一気に口うるさい。けど、まぁ実際助かるし、ありがたいことなんだろう。
「服、どこだ」
「…それ、その2段目、いや違う上から」
クローゼットの衣装棚を漁りだした奴に指示して、気怠い身体を起こした辺りで。
「おいばか、まだ脱ぐなよ」
着替え出してからにしろ、とこちらも見ずに飛んできた先読みの的確さに笑った。
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