引火 in カ
「カイト…それ、どうした?」

驚いて出した声音が叱るような口調になって。

「え…っ」

しまったと思った時には、俺より驚いた顔をしたカイトが瞬いた瞳を瞠った。

相手の言動に、どうにも過剰すぎる反応をしてしまうのはいつものことで。

お互い様だ、と思うと流れた刹那の沈黙が可笑しくなって少し笑った。

「ここ、赤くなってる」

自分の首元を指して見せると、思い当る節があるのか。

「あ…」

つられたように、気の抜けた顔をする。

「えっと、なんかかゆくて」

「ばか、引っ掻いたのか」

見せて、と足元のラグに座るカイトをソファに呼んで、こちらの膝を跨ぐように促した。

「あっあの重」

「くないよ、いいから」

途端に染まった頬と同色の一点は、血が滲んでるわけでもなく、少しだけ浮いて赤い。

遠目で見ても近くで見ても然程差は無く、まぁいわゆる…

「蚊に食べられただけ、ですよ」

「食べられた…」

食われた、とは言うからあってるのかな…と訂正すべきか苦笑して、可愛いからいいか、と結局流した。

元が白い所為でそこだけ目立つ痕跡が妙に痛々しい。

というか…悩ましい、というか妬ましいが正しい。

ここに、こうゆうの、付けていいのは俺だけじゃないのか、と誰に向けるわけもなく。

勝手に違うものを連想して主張したくなるのは流石にしょっぱい気がして止めた。

「痛い?」

引っ掻いてしまった時点で、かゆみ止めは使えないなぁと。

指で辿ると、伏せた長い睫が僅かに震える。

「むっむずい、です」

「むずい…」

いや、言いたい事はわかるんだけど、と笑い合っていられたのはその時までで。

触られるとかゆいのか、手首をゆるく掴まれる。

「あ、待…っだめ、ですマスター」

「…。」

ベッドの上なら違和感の無い声色に、しょっぱくていいやと思った。

どう足掻いたって燻ぶる気持ちは付き纏う。

余裕が生まれるわけないんだと、あっさり開き直ることにして。

「ごめん…嫌だったら今直ぐ言って」

「え…っわ、あっ」

抱き上げたカイトを寝室へ運ぶ途中で、耳を掠めた羽音に対抗心も煽られた。

要はなんだって火種になる。

寝台に寝かされてやっと状況を把握したらしいカイトの頬が見る間に真っ赤になっていて。

それでもこちらのシャツを握ったままの指先は離れない。

肯定と受け取ったことを伝える印をまずひとつ白い肌に残した。



end
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