彼へカレー
『理想の予想』直後のマス赤
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「なんだこれ…」
感嘆混じりの声音に笑って、受け取った味見用の小皿を流しに置いた。
キッチンに充満する匂いに釣られてきたのか。
珍しく自ら寄って来たアカイトは、そのままどこかへ行く様子もなく。
ぐつぐつと揺らぐ鍋の中を何やら真摯に見守りだした。
「…気に入った?」
「…。」
思いの外素直に頷かれて吹きそうになったのは何とか耐える。
…別に、餌付けする意図は無かったんだが。それならそれでいい気もする。
大事なのはその後で、きっかけなんてものは何だっていい。
せっかくのチャンスを無下にするのは避けたい。
「おまえの為に作ったから上手く出来たのかもな」
なんてのは、まぁ、嘘ではないが後付けの口説き文句で。
実際は昼に上がった話題の所為で久しぶりに食いたくなっただけだった。
「そんなので味が変わるのか」
「…。」
そんなのっておまえ。
つーか反応するところはそこか、と思わず苦笑いが漏れるけど。
見上げてきた瞳が予想以上に興味深げな色をするから。
「まぁ…適当に作るよりは」
好きな奴を想って作ったほうが美味いんじゃないか?と具体的に足してみる。
「へぇ…」
分かってんのか、分かってないのか。
いや、分かってないなこの顔は…
呆けたアカイトに笑い返して遠回しなアプローチは諦めた。
とりあえずは飯にしようと食器棚を開いた背後で。
「じゃあ俺のが上手くできるな…」
確かに聞こえた呟きに、危うく皿を取り落としかけた。
「…なんか言った?今」
「だから俺がおまえに作っ…た方が…」
言ってる途中で何を言ってるのか自覚したのか、アカイトがはっとした顔をする。
「…何も言ってねぇ」
「いや遅いだろ」
反射的に返してからしまったとは思うけど、堪えろって方が無理だった。
「あははっ」
「な…なにが可笑しい!笑うな!」
耳まで茹った真っ赤な顔で怒鳴られても、拍車が掛かるだけだ。
こちらの波が治まる前に痺れを切らしたアカイトが、もういいとか何とか不貞腐れた顔をして。
ついに逃げ出していく背に慌てて謝る。
可笑しいんじゃなくて嬉しいんだと、真面目な顔で説明できるか。
後を追う今の杞憂はそれだけだった。
end
赤マスタが家に帰った後の続きを、と言ってくれた方へ^^
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