理想の予想
「聞きたい?聞きたい?」

社食の長机2つ分離れた距離でも既に、
うざったさ満載の笑顔でやってきた同僚に溜息をついて。

「言いたいんだろ?」

「そう、カイトがカレーを覚えてさ」

ちょう可愛いんだよ、と続くお決まりの展開に箸を置いた。

「なに、もう食わないの?バテるよ」

「なんかもう…」

いろんな意味でご馳走様の気分だ、と返した傍から笑われる。いや、笑うところじゃないんだが。

「おまえ上手いこと言うなぁ」

感心するところでもない。
が、こいつに嫌味は通じないってこと自体が今更だったと諦めた。

「で?カレーがどうしたって?」

惚気話の続きを催促してやると、律儀に頂きますの手を合わせてた同僚が瞬いて。

「俺、おまえのそういうところ好きだ」

なんだかんだで聞いてくれるよな、とかなんとか感慨深げな顔をする。

「…おまえに好きだって言われてもなぁ」

「ああ、あーくん元気?」

妙なところで勘がいい。
こちらの脳裏に浮かんだ相手を的確に把握したらしく、馴れ馴れしく返る呼称に苦笑した。

うちにはアカイトが、こいつの家にはカイトが居る。

目に見えるパーツは全くと言っていいほどに同じふたりだけれど、中身はまるで違う。

それを承知の上で暮らしてるのだから、隣の芝生が青く見えるわけではない。

けれど、迎えたのが同時期なだけに、拭えない距離感に焦ったりはする。

「カイトの話だろ?」

嬉々として提供できる話題が残念ながらこちらにはまだ無かった。

「ああ、そう、なんか作ってみたのはいいけど量が増えちゃったらしくて」

帰宅早々半泣きで謝られて困った、とか。
破顔しきった面で言われてもなぁどこが困ってるんだか、と思うだけだが。

そう返したら返したで可愛すぎて困ったと続くんだろう。けど、まぁ、確かに。

「なんだそれ可愛いな」

「だろ!?だよな!俺もう一生夕飯カレーでいいと思った」

「…それはやだけど」

「えー」

おまえもあの子が相手だったらそう思うって、と力説される。

「アカイトが俺に飯なぁ…」

悲しいことに想像すら出来ない。むしろ催促される方なら出来なくもない。

ひとに何か頼むのが苦手な癖して、無茶を言いたがる節がある。

それがたとえ些細なことでも聞いてやると喜ぶというよりは、ほっとした顔をする。

そういうやり方でしか距離の詰め方を知らない不器用さを可愛いと思う、から。

カイトと同じ振る舞いをあの子に求めたりはしない。けれども。

毎日のように昼時に聞かされる、打ち解けた雰囲気は、羨ましいのも確かだった。

「…奇跡って起きると思う?」

「愛があれば」

頭の沸いた問いを大真面目に返されて自嘲する間もなく笑った。

それならもうあるんだけど。

まだ足りないんだろうか、と聞くべき相手はこいつじゃない。

帰ったら言ってみようと思っていたこの時の俺には、まだ。

明日の話題提供が出来るような理想が、現実になるなんて予想すら出来てなかった。


end
募マス箱より「KAITOののろけ話ばかりしてくるKAITOマスターの同僚にウザいと思いつつも内心羨ましく自分もAKAITOとあんな事やこんな事したい!と思ってる」AKAITOマスターでした。
打ち解けるのはマスカイのが早いだろうけど、一線越えるのはマス赤のが早いと思う!
ので、全国の赤マスタには頑張っていただきたい^O^
寄付して下さったピンポン様へ捧げます。ありがとうございマスター!^^

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