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live the lifeのふたりのような
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「…また色目使った」
背後で呟いたマスターの拗ねた声に溜息をついた。
だから、連れて来たくなかったんだ。
「あのなぁ…」
ちょっと笑うだけで値切れんなら儲けもんじゃねーか。
昨今の物価高騰を分かってないから、んな悠長なことが言えるんだと。
諭して歩く商店街は夕刻時に相応しい賑わいで。
頼んでもない荷物持ちを買って出た奴は未だ膨れっ面でちんたらとついてくる。
「おまえもー文句あんなら帰れよなー」
「やだよ、監視しないと」
「監視…」
そりゃあ重要な任務だな、と呆れて笑った隣で、瞬いたマスターが頬を染めたりするから。
「…褒めてないからな」
念の為の補足に不服そうな視線が返る。
「それくらい分かるって」
「ならいーけど」
「メイトが可愛い顔するから」
「…いや、それを言うならおまえのが」
可愛らしい面しといて、と続け掛けて思い至った案に足を止めた。
「そうだ、じゃあおまえが行け」
「…え?」
次に向かってた目的地は、直ぐそこの八百屋だ。
適当に愛嬌を振りまいて来いと、買い物のリストを手渡して送り出す。
何度もこちらを振り返っては不安そうな顔をしてたくせに。
店番の女主人と談笑する程度には上手くいったらしく。
「メイト!すげぇ安くしてくれた」
褒めろと言わんばかりの笑顔で戻ってきたマスターを眺めて案外複雑な気分になった。
「やっぱ…次は俺が行く」
「ええ!?なんで!」
「…おまえは俺だけに尻尾振ってりゃいいよ」
我ながら理不尽な言い分だと自嘲さえ滲むのに。
「な…っなにそれ、どういう意味?」
今し方の手柄より喜んでるマスターにある意味感心する。
「…おまえほんと可愛いなぁ…」
「えっもっかい!もっかい言って」
纏わりついてくる大型犬をそれなりにあしらって。
ひとりで来た方が円滑なのは確かだが、たまにはいいかと次の店へ歩みを進めた。
end
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