マスカイ
「マ…っ」
カイトを迎えに寄った隣宅の玄関先に、出てきたのはカイトで。
「…ま?」
「マスターに、折り入ってお話が…っ」
折り入られる程の何かをしただろうか、と速想した所為で。
時と場所の概念が一瞬旅に出てから帰ってきた。
「え…なに、どうした?」
家主が出てくる気配の無い廊下へ視線をやってまたカイトに戻す。
その間にも、あたりに漂う緊張感は増していて。
「あの…マスターは、えっと」
「うん?」
頼りなく泳いでた瞳がぎゅっと閉じるのを見る。
「し、仕事と俺どっちが大事ですか…!」
「え」
一息に言われた言葉を咄嗟に呑み込めずに、暫し呆けた所為かどうか。
「あ、ああのすみません俺あのナマ言ってすみま」
「あ〜違う怒ってない待って、えーと…え?」
ざっと青ざめたカイトの頬を慌てて撫でる。
その逆の手で、確認した腕時計の時刻は、確かに。
先週より早い、かもしれない、けど、
でもそれは今週そんなに立て込んで無かっただけで…別に調子に乗ったわけじゃ…
あ〜確かに用も無く家に電話してた…
けど、いや、それは今に始まったことじゃないよな…いや、まあ、とにかく。
「ちゃんと仕事もしてるから…」
カイトが心配することは何もないよ、と微笑んで間もなく。
「だめだ、あいつの発想が究極だった」
「賭けにもならなかったな…」
廊下の奥から何やら残念そうな声が聞こえた。
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