マスタS
「おまえが隣に住んでて助かる」

苦笑混じりに告げた本音に、家主が笑った。

「疲れてんのか?」

「いや…」

おまえほどじゃないけどな、と薄暗いリビングの隅へ視線を流す。

「どういう意味だ」

とか言ってる割には笑ってるあたり、自覚した上で開き直ってるんだろう。

「おまえはほんとにいろんな意味で尊敬するよ」

「…おまえはほんとに疲れてんだな?」

なんか淹れようか、と真剣な顔をした友人に笑い返して首を振った。

キッチンに立つ家主は未だシャツの襟元に解いたタイを引っ掛けたままで。

こちらはコートも脱いでいないが、長居するつもりも無い。

「いや、もう帰る」

度を越しすぎてるツリーも今は、近くの眠りを妨げないようライトが落ちて、謙虚なものだ。

最近のアカイトは遊びに来た隣宅で寝落ちが多い。

一緒に寝てたカイトは既に友人が寝室へ運んだらしかった。

続き間のダイニングから届く灯りが、ソファの上で毛布に半分隠れた頬を僅かに照らす。

額に掛かる髪を梳いたくらいじゃ起きる気配は無かった。

今月に入ってから、ほとんど構ってやれてない。

日増しに拗ねてるくせして、意地になって文句も言わない。

半分死んでた先週は会話の度に、24日に埋め合わす、と言ってた気もするから。

繰り返し聞いてるうちに刷り込まれたのか、大人しくその日を待ってる。

無言の抵抗が、連日の寝落ちに繋がってるとしたら可愛いし、健気さに癒されもする。

この家のソファからうちのベッドに連れて帰ってやることに、安心できる要素があるなら。

謹んで運ばせて頂こうかと苦笑して、眠る身体を抱き上げた。


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