ぐだぐだ!
女が男の機嫌を損ねた時は、裸で目の前に立てばいい。

ってどっかで誰かに聞いたとき、まぁ確かに、と納得してしまった俺も。

心と体が一直線な性別で、感情は欲情に負ける。

だってそういう造りになってる。
本能だから仕方ないんだよ。

という一連の言い分は今まさに、宴席の肴になっていて。

素直な男の同意と、女の子の可愛い反論、居酒屋の安い酒が相俟って。

ちょうどいい浮遊感が身体に回った。

「帰りたくねぇな…」

無意識に呟いた声音は、独り言に近かったのに。

無駄に耳の良い友人が、またか、と苦笑いを寄こす。

じゃあうちに来る?と隣のコから返ったお誘いは、
ボクたちまだ知り合ったばかりだから、と紳士的に断ったら笑われた。

いい加減、帰らないと心配をするひとがいる。



「だ、だいじょぶですか…っ」

脱いだ靴に脚が凭れた。
玄関先にへたった俺の目前に、しゃがんだカイトと目が合って。

「大丈夫そんな酔ってない」

って言いたくなるのが酔っ払いの性質なんだろうか、と。

「俺に掴まってください」

下がりきった眉を眺めてぼんやり思った。

「…無理だよ」

「だっ大丈夫、です!」

俺の身体を引き起こすべく伸ばされた手を、断った意味はそうじゃないのだけど。

力不足だと捉えたらしいカイトの、お任せ下さいとでも言いそうな顔に笑った。

カイトはいつでも一生懸命だ。

真っ直ぐに向けられる瞳を、
真っ直ぐに見れなくなったのは、いつからだろう。

「キスしたくなる、から無理だ」

薄い唇へ指を伸ばして辿った途端、息を呑んで強張る身体。

近距離の長い睫がぱちりと瞬く。

「…って言ったらどうする?」

綺麗な青藍。映った俺は、見事に酔っ払いの笑顔だった。

「……あ…俺、あの、水、持ってきます」

震えた声。火照ったカイトの顔は今にも泣きそうで、
キッチンに向かう背を見送ってから深い息を吐いた。

「やっぱ泊まってくれば良かった…」

カイトがもしも、女の子だったら、気づかずに済んだ。

抱きたいと思う衝動に、恋愛感情は必須じゃない。

けど、カイトは。


認めたくないって思うこと自体が既に、悪足掻きだよな…と。

寝転んだ玄関先でぐだぐだした。


end
募マス箱より「ボーカロイドに心惹かれていく現実が受け止められず、その想いを掻き消すかのようにこれまでより頻繁に女遊びをする」マスターでした。
赤相手のがいいのかなと迷ったんですがカイトにしてしまいました。
寄付して下さった貴方様へ捧げます。ありがとうございマスター!^^

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