情状は上々!
『だいぶタイプ!』の前編的な
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「なに食べたい?」
料理をしに、仕事へ行っていたはずの奴は今、
家に帰ってくるなりまた何か作り始めようとしている。
笑って向けられた問いは多分、マスターが思ってるよりずっと。
こちらにとっては難問だと気づいてないんだろうな、と思う。
だって分からない。
元々、食べなくてもいい身なのだから。
「パスタならすぐできる」
返答に困ってるうちに案が出されて、迷う理由もなく頷いた。
この家に来て既にもう、夜と朝を両手の指では足りないくらい迎えたけれど。
未だにマスターとの距離を掴めずにいる。
今みたいに、キッチンに立つその姿を隣のリビングから眺めてるときはいい。
けれど、お互いすることもなく、ただ過ごす時間が苦手だった。
だから、話をするには遠い距離に逃げてばかりいた。
初めて会ったその時に、マスターは俺でもいいと笑ったけれど。
何がどうして、俺でいい、って言うのか分からない。
それでも一度手に入れたものを失うのは怖いから、口数ばかり減っていく。
思ったことを口にして、俺が分かって、やっぱり嫌だ、と言われたら。
そんなことを考えている内に、マスターの話はどんどん先へと進んで行くし。
咄嗟に俺の口をつくのは否定的な強がりばかりだって、分かってるから。
いつまで経っても碌な返事も会話もできない。
「アカイト、おいで」
できた、と届く明るい声音に顔を上げて、呼ばれるままに向かった食卓の一席につく。
「まだ熱いから、気をつけな」
できたばかりの料理が乗った皿は確かに湯気が昇ってはいるけれど。
そこまで熱くない限りあんまり俺には関係ない。
って思ったのが顔に出たのか向かいに腰を落としたマスターが笑った。
「あれ?猫舌じゃなかったっけ…」
猫っぽいだけか、と呟いた奴はひとりで納得して、
今はもう目前のワインを開ける事に意識を向けてた。
俺が猫だったら。
もっとマシな感情表現をできるんじゃないかと思う。
なんて言えそうもないから、食べることに専念しようとフォークを取った。
こいつが作るものは好きだけど、食事をするこの時間自体も好きだった。
なにもしゃべらなくても近くに居れるし。
マスターは嬉しそうに笑ったりするって。
気づいた夜から。
end
アカイトは直ぐにでも落ちるのでマスタにはがんばって頂きたい
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