アフターアクター
『おまえが居ないと、ダメなんだ』

真っ直ぐに、こちらへと向けられる瞳には切実さが混じって。

『だから…俺のものになって』

どこか泣きそうな苦笑で告げられる言葉に、俺の涙腺まで緩んだ。

俺のもの、って、俺はもうとっくにマスターのものなんだけども。

うんうん、と何度も頷く過程で溢れた雫が、どんどん画面を揺らすから。

「あ、う…また観れなかった…」

慌てて目元を拭った。

手元のリモコンを弄ってまた、告白の冒頭へ場面を戻す、俺の隣で。

「あの…カイトさん…」

そろそろ止めてくれませんか、と届く声音にぎくりとして振り向くと、見事に難しい顔をしたマスター。

「も…もう1回!もう1回だけお願いします…!」

ヒロインの女優さんが頷いた後に、返る笑顔が観たい、のに。

何度観ても同じシーンで視界が揺らいで、もうもう俺のばか!ってなる。

「それ、さっきも言ってた」

「うう…ほんとのほんとに今度が最後で…」

「だめ、もうだめ限界」

勘弁して、と眉を寄せたマスターの目元が赤い。

実際のマスターは画面の中のマスターより数倍照れ屋だから。

さっきみたいな台詞はあくまでも台詞で、
実際に聞くことは多分無いんだろうな、と思う。

だから、余計に何度も観たくなるんだけど。

「せめて俺が居ないときに観てください」

苦笑いで返る忠告に、それだけは無理ですと慌てて首を横に振った。

「だってそれじゃ…」

ダイエット中にケーキを眺める女の子のようだ。
もしくは減量中に料理番組を観るボクサーとか。

そう必死に言い募ってみたとたん、一度瞬いたマスターが視線を逸らして。

「…なるほど」

ひとしきり笑ったあとに納得されても、なんだかこちらが納得できない。

「あ、あの俺は真剣に、ですね…」

「うん」

「我慢ならない、というか…」

また笑われる。笑って、抱き寄せられる。

「そういう事、言わないで」

俺まで我慢できなくなる、と囁かれた言葉の意味が分かって、急速に顔が火照った。

「あ…えっと…」

しなくてもいいですよ、と言えたら、このひとはどんな顔をするんだろうか。

テレビの中ではきっと今頃、照れくさそうな笑顔が返る、観たかった場面だ。

「マ、マスター、あの…っ」

「うん?」

本物の反応を知るためには、俺が持ってる全部の勇気が必要だった。


end
募マス箱より「芸能人」マスターでした。
アイドルから俳優まで結構沢山貰った案だったんですが、俳優さんにしてみました。
寄付して下さった貴方様へ捧げます。ありがとうございマスター!^^

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