侵食寝食
事後注意
*********

「おまえってM?」

ふと浮んだ疑念を真剣に聞いてみた途端、マスターが飲んでた缶ビールで噎せた。

「げほ…っな、…に…って、だ」

しかも気管に入ったらしく。

「なに言ってんだ?」

代わりに言ってやると、涙目のままコクコク頷く。

窓際の間接照明が、乱れたベッドも隣で揺れるその髪も、気持ち程度の灯りを落す。

薄暗いこの場だって分かる。

疲れた面、してるくせに。無駄な体力を使うあたり。

「追い込むのが好きだとしか思えねー」

じゃなきゃ、ただの馬鹿だ。

疲労時の欲情は生殖本能らしいが、
納期明けで二徹のサラリーマンは大人しく寝るべきだ。

呆れの息をついた俺から、笑ったマスターが視線を逸らした。

枕を抱いてうつ伏せるその頬で、睫の影が瞬きに合わせて揺れるのを見る。

「…今日、褒められて」

「うん?」

「寝不足ん時の俺って」

色っぽいらしいよ、と他人事のような声音。

「おまえに見せなくちゃと思って」

とかなんとか半ばうわ言のように呟くと、灯りの溶けた瞳を細めて艶やかに笑う。

「どうだった?」

「…。」

だめだ、手遅れだった。馬鹿だ。

けれど、このどうしようもなさがクセになってる俺の方が、よっぽどどうしようもないのかもしれない。

「でも、もう限界…寝る…」

宣言と共に上がった寝息を耳に、呆れたらいいのか安堵したらいいのか分からないまま溜息をつく。

「それ、褒められたっつーか…」

口説かれたんだろ。鈍いな。

どこの誰だか知らないが、ご愁傷様、と温くなった缶ビールを手に苦笑を呑んだ。


end
[歌へ戻る]

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -