on & on
「遅い」
待ち合わせは、社から近い大通りをひとつ逸れたカフェにした。
夕刻に近い店内は、それなりに賑わってはいたけれど。
「…悪い」
空席も目立つテラスで見つけた恋人は、いつにない微笑で相席を断っていた。
「次の誘いは乗るとこだった」
脚を組んだメイトが寄こす、人の悪い笑顔に苦笑して向かいに座る。
「それは…間に合ってよかった」
ほら、と差し出されたUSBメモリーを受け取って。
「…間に合ってよかった」
繰り返した台詞に、ありがとうを足して返した。
後の会議で使うプレゼン資料が入ってる。
これが無くちゃ何も出来ない、というのに。
自宅のPCに差したまま慌しく家を出た。馬鹿だ。
安堵の息を吐いた傍からやってきたギャルソンに、
オーダーを頼んだ途端、メイトが意外そうな顔をした。
「時間は?」
「少しなら…そんな直ぐ、追い返したりしないよ」
「へぇ…」
本当に、受け渡して終わり、だと思ってたのか。
薄く笑ったメイトの首筋に、寝坊の原因を見つけて苦い気持ちになった。
溺れてるときは自己満足に浸れる鬱血も、冷静に眺めると居た堪れない。
俺はもう少し落ち着けないのか、と思ってから。
襟元の開いたシャツをわざわざメイトが選んで着てきた意図に気づいた。
「…自覚したのか?」
今朝の不機嫌さが嘘のように返る微笑に確信の息をつく。
「ちょっと調子に乗った、ような…気もする」
「ちょっと…」
「…かなり」
「おまえなぁ受ける身にもなれ」
顔を顰めたメイトに笑って大人しく謝るけれど。
またその場になれば、一時の反省なんてどこかに吹き飛ぶ。
それを分かってるらしいメイトが呆れた様に笑って。
「待っててくれたら、いい店連れてく」
ありきたりな機嫌取りに、仕方ないなと頷いた。
end
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