わんわん
「暴走したら、止めて」

余裕の無い声を耳元で呟かれて、何て返すか迷った。

唐突に押倒されたから受身が遅れて、後頭部は床に打ったし。

抵抗を予期した対策か掴まれたままの手首も痛い。

「…今以上の暴走があんのか?」

呆れて見上げると瞬いたマスターが頬を染めて笑った。

「なんかメイトって無性に泣かしたい衝動に駆られる」

「…可愛い面してえげつないこと言うな」

「うそ、可愛かった?」

もっと言って、とか宣った唇は首筋に降りていて、
性急な指先はベルトのバックルへ伸びる、それに息を吐いた。

「…べッドまで行こうって余裕は?」

何事も物は試しだと絶賛発情中の大型犬に聞いてみる。

「無いよ。メイトがえろいこと言うから」

「へぇ…いつの間に」

「『俺が…飲んでやろうか』」

わざとらしい甘い声。
照明の眩しさに閉じてた瞼を思わず開いた視界の隅で。

マスターが挫折した銀の缶はローテーブルの上、今も水滴を纏う。

「…ビールの話だろ、それ」

「若くてごめん」

悪びれる様子も無い笑顔に毒気も力も抜けた。

代わりにやってくるのは、何だこいつ可愛いなぁって類の感情だから性質が悪い。

「…酒の美味さも分かんねーガキに」

何で押倒されてんだ俺…と零れた嘆きにマスターが笑って。

「諦めな、俺が好きなんだよ」

素肌の上に口付けていく。
その度に自覚する劣情に酔うのも、確かにまぁ好きだけど…

内から込み上げてくる情けなさはまた別問題な気もする。

「はー」

「溜息、つくならもっと色っぽくついて」

「はぁ…」

「…。」

多い注文に悪乗りして応えてやれば、妙に真剣な瞳と目が合う。

「頑張るから」

「…。」

屈託無く張り切られて絆されたついでに眼下の髪を撫でた。


end
年下わんこ系マスタってどうだろう
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