マスカイ+赤
「え…?」
じゃあ帰って来れないんですか、と。
やっと話が見えたらしいカイトの瞳が瞬いた。
「うん、だからカイト一緒に寝てあげて」
「は、はいっ」
こっちに布団敷こうか、と客間の襖を開くカイトのマスターに、今度は俺が、え?ってなる。
「俺帰るぞ、向こう」
「アカイト、大丈夫」
俺居るから寂しくないよ、と心配そうにカイトが微笑む、けど。
何なんだ。この会話が成り立たない感は…
「いや、だから…」
たかが一晩だろ、と言うタイミングを逃した間に畳の上に布団が並んだ。
「なんなら俺も一緒に寝ようか」
「川の字!いいですねー」
「いや、だから…」
この同情モードは何なんだ。
あいつは一体何日帰って来ないつもりだ、と。
「カイト川の字分かるの」
「テレビで観ましたよー」
俺が思いを馳せる間も、ゆるい会話は続く。
「アカイト、枕持ってくる?」
違うのでも寝れる?と客用の枕にカバーをつけてたカイトに話を振られてまた、え?ってなった。
「いや、だから…」
枕は帰って来れないんだろ?と会話の樹海に迷い込んだ俺と同じく。
「うん…?」
カイトも話が見えなくなったらしく、首を傾げるその横で。
カイトのマスターは道が見えたのか、ああそうか、と何やらひとりで納得した。
「じゃあ俺の腕、貸そうか」
こちらに返る善意と冗談半々の微笑に何を悟ったのか。
「あー…こういう時なんて言うんでしたっけマスター」
頬を染めたカイトが照れた顔して俺を見る。
「ご馳走様」
「そうだ、ごちそうさま」
「おい、待て…」
俺がいつ惚気た!?と声を大に訴えてみても。
「いいからいいから」
「そんな今更照れなくても」
何やらこそばゆい空気が流れるこの異空間で。
一刻も早く帰って来いと切実にマスターが恋しくなった。
next
[戻る]
[歌へ戻る]