マスタS
『アカイトそっちに居る?』
家に掛けても出ないんだけど、と。
音信が途絶えていた友人から漸くの連絡が来たのは、今日が終る数分前で。
「居るけど…おまえ遅くなんならもっと早くだなぁ」
俺が世の主婦の気苦労に共感し始めた頃だった、が。
『悪い、捕まった』
電話越しに酒気を帯びた喧騒を聞いて一気に同情した。
「なに…新歓?」
『ああ、褒めたい?』
「偉かったな…」
新顔が増えるこの時期に、
飲み会が比例するのはどこの企業も変わらないけど。
飲まされ過ぎた若手とか、
飲ませ過ぎる上司とか。
それらの処理班になりがちな中間世代は酔えない上に捕まったら最後。
「帰れる見通しは?」
『立たないな…明日、土曜だろ』
苦笑の混じる声音に、だよなぁと相槌を返す。
平日ならまだ、翌日を言い訳に逃げれんのにな…
「どーする?あの子泊めようか」
『あー…そうだな』
そうしてやって、と続く要請を二つ返事で承諾して。
「なんか伝言ある?」
まだ出てくる気配の無い浴室へと視線を流す。
「あの子今カイトと風呂入っててさ」
『なんだそのエデン…』
「うん…まぁ異論は無いが」
発想が疲れてんな、と返す声に労りを籠めた。
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