0×0
「キスしてみたい」
唐突に言い出したミクオを眺めて。
「は?」
ってなったからそのまま言った。
テレビの中では今まさに、そういう場面が現在進行形で行われていて。
こいつと観てたことに、少なからず居心地の悪さを感じていたところだった。
「だめ?」
相変わらず何を考えてんだかわかんない表情で問われて。
「え」
ってなったからまたそのまま言った。
「ちょ、待て。…俺と?」
「他に誰がいるの」
馬鹿じゃないの、とでも言いたげな顔をされる。
何で今に限って俺しか居ないんだ、と誰に向けたらいいかも分からず。
ふたりきりのリビングで思う間に、ソファから降りたミクオがこちらに近づく、から。
「…お、い!本気で言ってんのか?」
反射的に後退ってしまった事に何かが傷ついて怒鳴った。
「何言ってんの。僕はいつでも本気だよ」
それより煩い、と圧し掛かられて対応に困る。
そうだ、いつもそうだこいつは。どうしたらいいのかわからない。
「口、開けて」
拒み続けるのもまた何かが傷つく気がして、
言われるままに従うとやけに可愛らしくミクオが笑んだ。
やってることと外見が伴ってない。
「…っ」
触れた他人の体温に怯んだ隙に、捕まった舌先が妙に生々しい音を上げる。
鼻に掛かったような甘ったるい息が近くで聞こえて。
もしも自分のものだとしたら死のう、と思った、あたりで、ミクオが離れた。
始まりも唐突なら終わりも唐突過ぎる。
「……気、済んだのか?」
呆気に取られてるこちらは気にも留めず、目前の奴は卓上を眺めていた。
マスターが俺にくれた酒の肴が置いてある。
食い散らかすなとでも言いたいのか。なんなんだ。
「辛い…」
「は?」
「…そうだ、カイト」
カイトどこ行ったんだっけ、とやっとこちらを向いたミクオに今日一番腹が立った。
「あいつは買い物!!」
「何怒ってんの」
それがわかんねーから腹が立つんじゃないかと言ったらやっぱり何かが傷つく気がして止めた。
end
無意識×無自覚=未発展
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