マスカイ
旅館に着いた頃、俺の睡魔がアカイトに移った。

ずっと運転してたアカイトのマスターも、ついでに俺も休ませて、と笑って。

うとうとしだしたアカイトの手を引くと隣室に入った。
アカイト達は旅先でもお隣さんだ。

先にマスターと温泉に行ってのんびりしても、夕食までにはまだ少し間があって。

戻った室内でゆっくりした時間を過ごす。

今日一日何を見ても楽しいし何をしても嬉しかった、けど。

「俺、すごい贅沢になってきました…」

「なに、急に」

突飛な俺の宣言に、缶ビールを開けてたマスターが笑う。

だって本当は、マスターが今まで見てきたもの全て、俺も見たいと思った。

何を見てどう思ったのか全部知りたいって。

ずっとそればっかり考えてた、と白状して、溜息をついて。

視線を上げてからやっと、マスターが困った顔をしてるのに気づいた。

「あ、う、呆れましたか?」

今度はマスターが溜息をつくから、どうしようと今更慌てた俺の肩へ力が掛かって。

「あっあ、のマス」

え、と思う間に視界が回って畳に背がつく。

「ちょっと、黙って」

浴衣の襟元から入った掌がゆっくりと肩まで滑る、それだけで。

びっくりして身体が跳ねたのに。

「…っい」

直ぐに口付けられた首筋でちりっとした痛みが走った。

「…煽った自覚、ある?」

見上げた視界で苦笑したマスター。

「あ、えっと、あの…」

鼓動だけは足早に響くのに、ちっとも思考が働かない。

碌な返事も出来ずただ慌ててたら深い溜息が降って。

「多分、逃がしてあげられないけど、諦めてね」

今夜、と。
熱っぽい声が耳に響く。

さっき入った温泉よりも確実にのぼせたのだけは分かった。


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