宵酔い
「怒ってんのか…」

どこか熱っぽくて気怠い声音が背後から届いて。

起きたのか、と振り向いたソファの上、まだ意識の危うい深紅の瞳がゆっくり瞬く。

「…うん、って言ったら?」

「やだ…」

舌っ足らずな返答に笑った。


勝手な杞憂で与えてなかったアルコールを、ねだられるまま。

やっぱり勝手な気まぐれで飲ませてみたのは俺だから。

もっと早い段階で止めるべきだったと後悔こそしても。

「別に、怒ってないよ」

おまえは何も悪くない、と髪を梳くとアカイトは安心したように瞼を伏せた。

飲み過ぎたと自覚する程度には抜けてきたとは言え、まだ酔いが醒めたわけじゃないんだろう。

頬がまだ赤い。

触れた俺の掌が冷たかったのか、擦り寄るような仕草を見せる。

危惧してたことはそのまま、今起きてた。

熱を帯びたこの雰囲気に誘い落として奪うのは、きっと容易い。

けれど。

「覚えてないだろうな…」

何をするにしても、望むベクトルが揃わなければ意味が無い。

不埒な思案を嘆息で打ち消して。

「水、持ってくるから」

飲んだらちゃんとベッドで寝ような、と声を掛けるとぼんやりした瞳と目が合う。

「うん」

普段からは考えられない返答に、呆気なく意志が弱って困った。

「頑張れって言ってみて」

「ん…?」

酔っ払いにエールを求める程度には、俺の方が沈酔してる。

アルコールの有無になんて関わらず、いつだって。

こいつの全てに。


end
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