lose love
マスターはかなり惚れっぽい人だ。

そのくせ、惚れっぽい人を好きになったりする。

だから、

「またダメになったって?」

くっついても早々長くは続かない。

惚気話を聞いたのはまだ記憶に浅く、
今回こそは落ち着くかもと思っていたのに。

「残念ながら」

俺のついた溜息に、朗らかな笑顔が返った。

「…残念そうに聞こえねぇ」

内心がそのまま音になって零れたらしく。

しかも聞き取れたらしいマスターは、心外だ、と反論した後。

「俺も今回はワンシーズンいくかと思ったんだけどなー」

やっぱり暢気に笑った。

いや、まず目標がおかしいだろ、と突っ込むべきか迷ってるうちに。

「今日、ごはん何?」

隣に立ったマスターが袖を巻くって、何か手伝う、とか言ってくる。

「炒飯と餃子のスープ」

「メイト、好きだ」

「『中華、好きだ』だろー」

「そうとも言う」

万が一落ち込んでいた場合に、と思っていたけど。

別に何を作っても喜んで食うんだろうなこのひとは。

飯も喉を通らないくらいの、失恋でもしたら、つけ込んでみようと思うのだろうか俺は。

なにはともあれ、マスターがふらふらしてる限りこちらの心情もふらふらと落ち着かないまま。

諦めも出来ず、進めもしない。

「…なぁ俺にしておけば?」

ワンシーズン続くかもよ、と
冷蔵庫へ手を掛けた俺の視線の先を、同じく眺めたマスターが意図に気づいて。

「…試しに付き合ってみるか」

4月が始まったばかりのカレンダーに笑う。

嘘を前提にしてりゃ簡単に実るらしい初恋の難易度に自嘲した。


end
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