chase the choice
恋愛に振り回される奴は馬鹿だ。

一時の感情で一喜一憂したりしてるひとを見ると、お疲れさま、と言いたくなる。

それは今も変わらないけど。


「僕、メイトだったら抱かれてもいいよ」

唐突に前を横切った人に、条件反射で声を掛けると、いつもと同じく笑って流された。

「おまえ…どこでそういう台詞覚えてくんの」

乱雑に髪を撫でてくる掌は大雑把だけれど、彼の中には繊細で綺麗な部分がある。

「…こっちが教えて欲しいよ」

恐らく彼が、故意に隠してるそれを知ってしまったその日から。

「勝手に言葉になるんだ、メイト見てると」

いつの間にやら降ってたらしい雨がしとしとと、庭先で洗濯物を濡らしていて。

たぶんそれをとりこむべく居間を横断途中のひとは足を止めたまま、ソファの上のこちらを見ていた。

「前から言ってるじゃない、好きなんだ」

「…俺も、ミクオが好きだけど」

「それは…どうもありがとう」

こんだけ真剣に伝えても、仮兄弟の垣根は高いのか、と。

視線を落として、溜息をつく前に先を越された。

深い息を吐いたメイトが眉を顰めてぐしゃぐしゃと自分の後ろ髪を乱す。

「…おまえが、そんなだからどっちかわかんねーんだよ」

珍しく余裕の無い仕草に瞬くと渇いた指先がこちらの唇を辿って。

その後を追うように屈んだメイトの唇が触れた。
誰かに咥内を舐められたのは初めてだった。

案外、簡単に息が上がる。
相手によるのだろうか。

「…どこでこういうの覚えてくるの」

長いキスの後呟くと、近距離の瞳から探るような色が消えた。

変わりにいつもと同じ、困惑と呆れと親愛が混ざった甘ったるい笑顔が返った。

「とてもじゃないけど、抱かれるのは無理そうだな」

あはは、と笑われる。髪を乱してくる掌はいつも通り大雑把で。

「…前から言ってるだろ、俺もおまえが好きなんだ」

だからあんまり煽んな、と告げる口調までも普段と同じ。

「腰が立ったら手伝って」

中庭に続く窓を開けた彼が、既に手遅くれな程濡れた洗濯物をとりに行くのを見送って頷いた。

欲しくて堪らなかったものが唐突に手に入ったら、こんな顔になるのかと。

窓に映る今にも泣きそうな自分を眺めて。

お疲れさま、と呟く声音が雨音に消えた。


end
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