感傷を鑑賞
マスターはかなり惚れっぽい人だ。

彼の作る曲は決まって、想うだけの曲で。

一方通行が主題の割りに、明るい曲調が多いからか、
固定ファンの間では応援ソングと捉えられていた。


「バイト先に新しい子が入ってさ」

嬉しそうに話すマスターに笑い返して、またか、とわざと溜息をつく。

「どのバイト?」

昼は大学、夜はバイトの掛け持ちと。
忙しくしてるくせに疲れた素振りを見たことが無いのは、恐らくこのひとが全てを楽しんでるからだと思う。

マスターは興味が向いたことしかしない。
その分かり易い潔さが、俺は好きで堪らなかった。

「バーの方」

片目を瞑ったマスターが、肩から前に向けて緩く閉じた指先を振る。

「ダーツ?」

「そう、すごい酒に強くて」

お客と張り合ってる、と笑って。

「何となくおまえに似てる」

爆弾を落す。

思わず俺が黙ってしまった所為で、少しの間アップテンポのメロディだけが部屋を満たした。

マスターがさっき、出来たと騒いでた新作で。
恐らく、その子を想って作った曲、を後で歌うのは俺だ。

「…ガタイがいいってこと?」

故意に空けた間のように振舞って冗談めかした笑顔を返すと、そうじゃない、と眉を下げたマスターが笑う。

「人が良いって言うか、明るくて、いい子」

今度こそなんて返したらいいかわからなくなった。

褒められてるのはその子であって、俺じゃない、と。
馬鹿みたいに喜びそうになる感情を抑えるのに必死で。

「…メイト?」

どうした?と問われてやっと我に返った。

「今度は上手くいくといいな」

「今度は、なぁ」

わざと嫌味っぽい口調を作って笑うと、マスターも応えるように苦笑を作る。

俺は自分の想いよりも、このひとの幸せを取りたい。

いつだってそう思ってるはずなのに。

上手くいかないもんだな、と
部屋に流れるメロディを聴き入るように目を伏せた。


end
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