case by case
「好きだよ」

酔っ払い相手にするには真剣すぎるほど真摯な告白だったと思う。

けど、相手は所詮酔っ払いだ。

色素の薄い茶の瞳が瞬いたのは一度だけで、直ぐにいつもの色に戻った。

「俺も好きだ、ミクオ」

かわいい、と長い腕に抱き寄せられて後ろ髪を撫でられる。ひじょうに酒臭い。

「それはどうもありがとう」

大袈裟な溜息をついてみたけど効果は期待し無かった。

相変わらず上機嫌な様子の想い人は、ひとのことをクッションのごとく抱えたまま酒盛りを続けた。

さっきまで日本酒が入っていたグラスは今、目の前で琥珀色の液体に満たされていく。

彼はお酒が好きだけど。
いつにも増して飲み方がめちゃくちゃだ。

こんな風な酔い方を彼にさせるのは一人しかいない。

「マスターとなんかあったの」

だばりと零れたビールがグラスから溢れてこちらにも少し掛かった。

呼称だけでこの反応、とさすがに少しげんなりする。

「本当は、落ち込んでるんでしょう」

背後のひとの動きが止まる。
核心を突くのには、告白以上の勇気が必要だったけど、振り向くのにはもっと要った。

メイトはやけに優しい顔をして笑っていた。

だからこちらが泣きたくなった。

「12時、過ぎた」

あたまの上で視線が動いて、こどもは寝る時間、と腕の中から解放される。

「メイ」

「手首、濡れてる」

取られた片手は彼の袖口で拭われた。
ごめんな、と落ちたことばの矛先がどこに向いてるのかをまだ確かめる気は無かった。

「諦めてないからね」

我ながら子供染みた言い方だったとは思うけど、おかげで彼はいつもと同じ笑顔を見せた。

「おやすみ」

大きな掌が普段と変わりない仕草でこちらの髪を撫でて額に軽く口付けられる。

「おやすみ」

彼が兄弟ごっこをしたいなら、今はそれでもいいかとため息をついて。

絆す作戦を立てるべく強敵からの一時退却をした。


end
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