マス赤
目的地へ向かう途中で見つけた動物園に寄道した時点で。

やり遂げた感満載だったカイトが車内で寝落ちするまでにそう時間は掛からず。

立ち寄ったパーキングエリアでは俺とマスターだけが降りた。

さっきまで真上にいた太陽は少し傾き出してる。

「旅館、何時に着けばいいんだ」

「たぶん3時」

「多分っておまえ…」

呆れた俺にマスターが笑って、遅れそうならあいつが電話入れてくれるよと暢気な声音。

いい加減な回答よりも、車道を横切る際に繋がれたままの手の方が落ち着かなかった。

パーキングに居るのは何も旅行客ばかりじゃない、いくらオフシーズンでもそれなりに人は居る。

「気になる?」

「…何が」

「言わせたい?」

「…何を」

「何だろうな」

「何だよ」

無意味なようで意味深なやり取り。
じんわりと掌が汗ばむのが分かってもどうしようもない。

半歩前を進んでたマスターが不意に立ち止まって。

「…暑い?」

振り向いた笑顔が、冷静なくせに愉しそうで腹が立った。

「別に!」

思ったより大声が出て、マスターの背後に見える売店から少しばかり視線を感じる。

余計な注目を集めたと後悔に気を取られてるうちに、顎の下を指先が掬った。

躊躇いが無さ過ぎて目を瞑る間も無かったのに。

「…杞憂だったな」

やけにのんびり離れた唇はいつもの苦笑を象っていて。

「ば、おま、な、何し…っ」

馬鹿おまえ何してんだ、が勝手に省略されて口をつく。

「関係性に危機感を抱いてたんだけど」

大丈夫そうだ、と一人で納得されて、何事も無かったかのようにまた手を引かれた。

全く意味が分からない。

けど、首筋から耳に掛けてじわじわと熱が帯びてくのは分かる。

「…暑…」

状況に混乱して呟いた現状に、半歩先のマスターが笑った。


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