shift to gift
玄関を開けた瞬間から、アルコールの匂いに鼻が曲がった。

メイトが飲みすぎるのはいつものことだが、ここまで酷いのは何かあったときだ。

それは良い事も悪い事もどちらにも当て嵌る。

今回はどっちだと向かったリビングで、

「換気しろ換気」

部屋中が臭い、とソファを背凭れに床にへたる酔っ払いの足を跨いで窓を開けた。

「そうか?別に、気にならない」

「おまえそれ鼻が馬鹿になってんだよ」

サイドボードは安いツマミと空いたビール缶で溢れていた。

その脇、ラグに転がる褐色のボトルに目が止まる。
祝い事があった日にでも飲むつもりでいた、それなりのワインだ。

反射的に振り向いた先で、メイトが愉しそうに瞳を細めた。

「隠すならもっと上手くやれよ」

咄嗟に出た舌打ちと悪態を笑い飛ばされながらタイを外す。

「別に隠しては無い」

「あ、そう」

ついでにスーツの上着も投げるように放った。

「メイトと飲もうと思ってた」

「へぇ」

外した腕時計が硝子の天板で音を上げる。
その間、一度も視線が合わない。

どうやら今回は自棄酒らしかった。

「…悪かった。機嫌直せ」

しかも俺が原因の。

飲んでる量の割りに涼しい顔へ、ついた溜息に返る胡乱な視線。

「何に対しての謝罪?」

「いま考えてるから待て」

「それおまえの悪い癖だよな」

適当に謝るな、と尤もな意見を耳に、ここ数日のことを思い返していた。

社でトラブルが起きたのは週の初めで、今日は木曜、時間的にはもう金曜か。

ここ暫く時間と曜日の感覚が無かった、と眺めたカレンダーの日付に気づく。

「…思い出した、から」

「から?」

「祝ってくれ」

昨日は誕生日だ。俺の。

「…どうしようかな」

「おまえでいい」

こちらを試すように笑っていたメイトが、苦いものでも食ったような顔をする。

「…おまえ『が』いい、だろ」

「可愛いな」

「曲解するな。俺の価値に対して、だ」

その日が終って2時間過ぎてる。
時間でも、人でも、縛られるのを嫌うこいつが。

律儀に待っていたことは、単純に俺を喜ばせた。

「可愛いな」

「何度も言うな」

萎える、と顰める顔に、その心配は要らない、と返して。

酒臭いギフトの包装を解くところから始めた。


end
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