無味の意味
2/13ネタ
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「それだったらおまえも食えるんじゃないか」

そう笑ったマスターが寄こしたのは、簡単な包装の小さい菓子で。

食卓に乗っていく、いかにもな小箱たちと比べるとやけにシンプルだ。

説明されずとも、これがどんな物か直ぐに分かった。

「柿の種チョコ…」

って印字された名称が全てを物語っているし、袋が透明だから中身も見える。

「今年は逆チョコが流行なんだって?」

疑問系なのは多分、俺の方がメディアに詳しいのを知ってるからだ、と思うとそれもどうなんだ、と思って。

視線だけ返す曖昧な返事をしておいた。

一日中家に居る身としては、意味も無くテレビを眺めている時間が多い。

明日がどんな日かも知っている、し、事も無げに今こいつが持って帰ってきた小箱の中身も分かる、けど。

当日が休日ならフライングも有り、らしいのは今知った。

「それ、貰って来たのか」

「…俺にも純粋に喜ぶ時代があったんだけど」

今はそれが時期の早いお中元に見える、とネクタイを解いたマスターが片眉を下げて笑う。

義理だから心配するなと言葉に出して言われたら、恐らく、してないと即答してただろうから。

回答としては模範的だったんだろうな、と思う。

下手な意地も変な疑念も未遂で済んだ。

受け取ったまま掴んでいた袋の中で、すこしチョコレートが溶けていた。

「なぁ」

「うん?」

きっとこれはこいつが買って来たんだと、分かっているのに。未だ何も言えてない。

「これ、チョコだけ食え」

「…またおまえは難易度の高いことを…」

後を追った寝室で、シャツの袖釦を外してた手を止めてマスターが苦笑する、けど。

「つーかこれチョコだけ食ったら意味無」

「いいから早くしろ」

「はいはい」

形はどうあれ、俺からおまえに食わせることに意味がある。

僅かに甘味の残る舌先が味の抜けた煎餅を寄こしてくるのを待った。


end
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