福豆
これを貰って書いたマスカイ
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「節分…ですか」

こちらのことばをそのまま繰り返して、カイトの瞳がぱちりと瞬く。

食卓に乗せた赤い紙袋は、お年玉袋よりやや大きめのもので。

『福豆』と謳ってる割には無造作に、小粒の豆が入ってる。

「喫茶店で貰ったんだけど」

風習的な行事が廃れつつある昨今だからか。

昼に立ち寄ったチェーンの珈琲ショップで配っていたそれは、いろんなところでやっていたらしく。

社内に戻ると数名のデスクに同じような袋が所在なさげに置かれていた。

というのに。

「欲しいならあげるよ」

カイトは繁々と眺めてるから。

可愛らしさに笑ってしまったのを誤魔化すようにネクタイを解いて。

「えっいいんですか」

「いや、でも、美味くも不味くもないよ」

返る反応の大きさに慌てて言葉を足した。

「食べるもの、ですか」

きょとんとする表情にこちらもぽかんとしてしまう。

ああ、そうかそこからなのか…と紙袋から摘んだ一粒をカイトの口元へ運んだ。

「え?え…っ」

「食べてみれば」

俺の顔と指先を交互に眺めたカイトが、さっと目元を染めて大いに迷った後。

おずおずと開く口の中へ、摘んだ豆を乗せて指を引く。

困ったような火照った顔で咀嚼してるカイトに笑って。

「歳の数だけ食うと幸せになれるんだって」

そういえば、と思い出した迷信を口にすると、え!と大袈裟な声が上がった。

「じゃ、じゃあマスターが食べなきゃ、ですよ…!」

「…。」

やけに真剣な顔で、俺がさっきそうしたように豆を摘んで寄こされる、けど。

…これ、分かってないよな、とは思いつつ。

カイトがさっきそうしたように、指先ごと食んだ。途端、驚いて揺れる瞳。

「…俺、幾つか知ってる?」

「えっあ…は、はい」

案の定、狼狽えてるカイトの頬はある意味可哀相なくらい熟れて。

それでもこちらが次を促して口を開くと、震える指がやってくる。

後、20数回繰り返してくれるのだろうか。

指が出て行くのを見計らって噛んだ豆がガリ、といい音を上げる。

それにすら泣きそうに揺れるカイトの睫を眺めて。

迷信なんか信じなくとも、もう充分幸せなのにな、と。

美味くも不味くも無い豆を食べた。


おわり
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