マスタS
「ふたりは?」
静かだな、と笑った友人の視線が一度、ルームミラーに上がって、直ぐ公道へ戻る。
それに促されて振り返った後部席には、肩を貸し合って熟睡中のカイトとアカイト。
「可愛いよ」
「…いや、知ってるけど。そうじゃなくて…」
本当は帰りもどこか寄っていくつもりでいたけど、この調子じゃ恐らく。
「起きそうに無いな」
真っ直ぐ帰るか、と体勢を戻して、開けてやった缶珈琲を隣に手渡す。
「あっおまえ、寝る気か…!」
帰りの運転手じゃなくて良かったと、シートを少し倒した途端上がる非難に笑って。
「俺昨日あんまり寝て無…」
言いかけた途中で懸念を抱いた。
「おまえ…ちゃんと寝たんだよな?」
「…。」
「おい、黙るな」
一度こちらに流れた友人の視線は直ぐに前方へ戻りはしたが。
「俺、さぁ…」
「う、うん?」
何を思い出したのか、どこか違う世界を見てるようにも見える。
「カイトは抱いたら天界に帰っちゃうような気がしてたんだけど…」
大丈夫だった、と穏やかに笑う友人の横顔を眺めて。
「少し…落ち着いて話をしようか」
「は」
こいつをまず現実に還さなければ、無事我が家に帰れそうに無いと悟った。
end
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