情事の事情
「展開が急すぎる…」
ぽつりと漏れた感想に隣から相槌が返って。
「ちょっと無理があるかもな」
笑ったマスターの横顔に画面の光が陰影をつけた。
テレビの中では相も変わらず、ひとがひとをすきになったり嫌いになったり忙しない。
誘われるままに観始めた映画を、早くも後悔し始めた。
照明を落とした薄暗い室内も、肩の触れる距離の近さも。
内容に興味を持てない今となっては、意識の流れる先は隣で。
そんな風に考えるのはこちらだけだと、分かっていても。
「眠かったら寝ててもいいよ」
「…。」
分かってるだけに、暢気な声音に腹が立った。
いつもとなんら変わりない仕草でひとの髪を梳いた手は、反対側の耳に回って。
肩へと寄り掛らせる意思をみせる。
「…アカイト?」
それを拒むことでやっと、画面から視線を奪えた。
「…おまえも、寝るなら、寝てもいい」
「…。」
どんな意味で取られても構わないつもりで言ってみたのが分かったのか。
一度呆けたマスターは少し考えた後、やけにやさしい顔をして。
展開が急すぎる、と笑う吐息が口付けられた頬に掛かった。
「後で文句言うなよ」
牽制染みた忠告に多少の怖気は滲んでも。
ひとの恋愛事情を傍観するよりよっぽど有意義だと思う。
早く溺れてしまおうと、深くなるキスに大人しく目を伏せた。
end
アカイトは さそいもんくを おぼえた
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