4人
「コキチ…」
隣で呟いたカイトの手元を覗き込んでみる。
「こきちだな…」
人で溢れた本堂の喧騒から、少し離れた境内の端で。
しょうきちって読むんだよ、とカイトのマスターが笑った。
「俺のと足して割ったら中吉くらいかな」
「足して割ったり出来るんですか」
「おまえまた適当なことを…」
信じるんだぞこいつは、と釘を刺す前に、名を呼ばれて振り返る。
「中身読んだ?」
貸して、と伸べられた手に自分の紙切れを渡して。
見上げた花も実も無い木の枝は、見事におみくじだらけだった。
「高いところに結ぶといいらしい」
「何でだ」
言ったとおり上枝を取ったマスターが結んだ紙は、
インクの朱色が目立ってちょっと花みたいだと思う。
「神様の目に留まり易いんだって」
「へぇ…」
言われるままに頷いた背後から、またおまえは適当なことを、と声が掛かって。
「信じるんだぞ、そいつは」
笑ったカイトのマスターが隣の枝に二人分の紙を結んだ。
「えー聞いたこと無い?」
「大吉と凶を重ねて結ぶと相殺!ってのは聞いたことある」
「それこそねーよ」
「いやホントだって」
なにやら胡散臭い話が弾み出したマスター達を眺めて。
『疑念を払えば幸福が訪れる』
と書いてあったおみくじに、俺は早速疑念を抱いた。
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