調理調査!
「絶対に無理」
やけにはっきりきっぱりと、マスターが断言するから。
『押すな』のボタン程押したくなる人の心理が分かった気がした。
「試してみなくちゃわかりません、よ!」
言って腕まくりした袖をまた手首まで戻される。
「マスターっ」
「分かるよ!おまえだって何もないとこで連日すっ転ぶ奴が」
んな器用なこと無理だって、と続く説得には大いに異論が。
「何も無くなかったですよ…!」
今日はマスターがほっぽったワイシャツが!昨日は靴下が!その前は…
って訴える傍からマスターの視線が逸れていくから。
今だ!と思った。
「あっこらカイト!」
「こっちこそもう、絶対に無理、なんです!」
逃げるように向かったキッチンで追いかけてきたマスターを振り仰ぐ。
外食はまだ許せる、コンビニのお弁当、も辛うじて、だけど。
「マスターここずっとカップ麺ばっかじゃないですかー」
俺より背が高いくせにきっとこのひと俺より体重無い筈、だ。
とてもじゃないけど、健康的とは言えない生活をしてて、今まで体調を崩さなかった方が不思議すぎる。
「冬は…買い物に行くのが面倒で…」
「またそんなことを…」
掃除や洗濯がいくら出来なくても死にはしない、けど。
「食事は生死に関ります、よ…!」
こちらの必死の訴えを、大袈裟だなぁと流されて反論するより先に。
「とにかくだめ、料理はだめ」
他の事してくれてるだけでも充分過ぎるよ、と先手を打たれた。
「うう…」
た、確かにいきなり上手く作れる保障はない、けど、でも。
「お、俺だって練習すれば…」
「…そうじゃなくて」
あーもう、と降った溜息にびくりとしたら、今度は掌が降って来て。
「おまえが包丁とか…だめ無理、見てらんない怖すぎる俺が無理だ」
髪の毛をぐしゃぐしゃと乱された。
「…えっと、ですね…見ない、という選択肢は」
「無い」
「…。」
マスターは、生活に関する能力を一切持って無いと、思うけど。
俺の気持ちを奪う能力には長けてると本当に思う。
溢れすぎて行き場の無くなった感情を、やり過ごそうとついた息に、
「諦めた?」
暢気な笑顔が返るから。
「…マスターこそ大袈裟、ですよ…」
早急に、このひとが納得する、危険を伴わない料理を調べなくては、とまた溜息をついた。
end
募マス箱より「生活能力が全く無くて(料理やら洗濯やらが出来ないからコンビニ通いだったりコインランドリー通いだったり)面倒くさがりでほそっちょろいマスターをどじっ子ながらも世話をやくカイト、そのカイトを拠り所にする」マスターでした。
拠り所というか過保護になっちゃった…!申し訳ない!
寄付して下さった貴方様へ捧げます。ありがとうございマスター!^^
[歌へ戻る]