想い想い
カイトは俺にNOとは言わない。

絶対服従のプログラムでも組み込まれてるのかは知らないが。

カイトはうちに来たときから従順だった。

だからこそ。
それが、俺のストッパーになってた。

強制じゃ、意味が無い。


「やべ…寝すぎた…」

眩しい程の陽射しが照ってた窓辺には、ゆっくりと夕刻の色が落ちて。

照明も点けて無いこの部屋はすこし暗い。

ちょっと昼寝、のつもりがだいぶ夢の世界に居た様だ。

隣に転がるカイトを揺すって、自分の身体も無理矢理起こす。

「うう…朝、ですか…?」

ボーカロイドも寝惚けるんだな、なんて苦笑して。

目を擦る仕草でまどろむカイトに湧くこの感情は。

今の状況的に…
都合が良すぎて、駄目だな。

「なんか、降りそうだな…」

無理矢理逸らした視線の先に、いつの間にやら不穏な雨雲。

開けっ放しの窓からは生温い風が部屋を満たして。

それを見るなり覚醒したのか、カイトががばっと跳ね起きた。

「マスター!洗濯物!」

「あー…そういえば」

「そういえば、じゃないですよー」

慌ててベッドを降りるカイトの腕を、思わず捕えてから。

「…マスター…?」

しまったと思う。

純粋な疑問で瞬くこいつの瞳に、俺はどう映るんだろう。

「雨、降っちゃいますよ…」

「うん」

シーツの跡。
見つけて指を走らせた頬が、かぁっと熱を帯びて。

「…洗濯物、濡れちゃいますよ…」

「うん」

困惑に揺れる青藍の方が先に、濡れて溢れそうだ。

怖がらせるつもりなんて微塵も無いのに。


俺がカイトに好きだと言ったら、きっとカイトも俺を好きだと返すだろう。

それは、俺が、マスターだから。

…想う意味が違いすぎる。





掴まれた左腕から、触れられた片頬から。

伝わるマスターの体温は、俺のそれとは余りにも違いすぎて、それが妙にかなしかった。

生の宿る黒い瞳に、俺はどう映るんだろう。

「ホントに、雨、降っちゃいます…」

「…だな」

少し笑ったマスターの手がゆっくりと離れて、身体が自由になる。

なのに、気持ちはどこも開放されなかった。

マスターが触れるから。
俺に笑ったりするから。
温かいから。優しいから。

俺はどんどんダメになる。
もっと、なんて思ってしまう。…贅沢だな。

「…洗濯物、とりこんで来ます、ね」

「カイト」

呼び止められてびくりとする。
だめ、って言われたら俺は何も出来ない。

嫌われたくない。
でもマスターに何かしたい。

ダメって言われたら、どうしよう。

「…俺も一緒に行く」

ほっとしたら泣きそうになって慌てて笑って誤魔化した。


俺がマスターに好きって言ったら、たぶんマスターも同じように言ってくれる。

マスターは優しい、から。

でもそれはきっと俺の『好き』とは違うんだと、思う。


耐え切れなかった雨空はついに泣き出してた。
一緒に眺めた遠くの雲がすこし光った。

いつかこの感情も、溢れる日が来るのかな。

溢れたら、どうなるんだろう
溢れたら、どうしますかマスター


窓の外、遠くで響く雷鳴をふたりで聴いた。


end
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