マスタ×2
「で、これがそのわんこ?」

ソファ横に置かれたケージで寝息を上げてる子犬を指せば、

「…うん」

続き間のダイニングから遅れて返る気の無い回答。

「で、俺のカイトは?」

「…うん」

「…で、俺のアカイトは?」

「…う、ん?いつおまえのになった」

そこは反応するのか、と苦笑して向かいの席に腰掛けた。

「それで?おまえはさっきから何を真剣に読んでるんだ」

灰皿溢れてんぞ、と足したついでに、客にお茶くらい出せ、とも付け足す。

「誰が客だ誰が」

とか言いつつキッチンに立つ友を律儀な奴、と思って。

食卓に置かれた本のタイトルに、その思いを深めた。

「『子犬の育て方』っておまえ。一晩だろー?」

「あの子達が借りて来たんだよ」

何かあったらまずいだろ、と何故か俺が諭される。

「まぁ確かにそうだけど…」

「それに、もし、あいつが本気で飼いたいとか言い出したとき用に」

知っておいても損は無い、と笑う声音に心底呆れた。

「は、何言ってんだ」

「おまえか!それアカイトに染したの」

「は」

「それ、口癖、あいつ最近すぐ」

「いやちょっと待て、その話後にしろ」

なんだって?
食卓に並んだ珈琲カップのひとつを指して、まぁ飲め、と言ってみれば、淹れたの俺だろ、と返される。正常だ。

「おまえ、だって犬嫌いじゃなかったっけ?」

「…嫌い、って言うか苦手、なんだよ」

「同じだろ」

いや違う、と否認されても何が違うか分からない。

「なんかこう…あの従順さがプレッシャーになってどうも」

可愛いとは思うんだけど、と足された言葉で理解出来た。

「俺が猫苦手なのと同じような理由か…」

「おまえは構い倒して嫌われるタイプだよな猫に」

要するに性に合わないってやつだ、と苦笑し合った。


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