day by day
「プロポーズされてしまいました」

照れたような困った顔で近づくカイトに笑って、誰に?と聞き返す。

「ヨメにしてやるって」

「…それはそれは」

最近の子は侮れないと思ってたけど、本当に侮れないなぁと。

促された視線の先で遊ぶこどもたちを妙な感心で眺めた。

「じゃあカイトは先生のだから無理ですって断って来て下さい」

「はいっ」

「あー待ったカイト!冗談!」

素直に駆け出した背に慌てて制止を掛ける頃には、
会話を聞いてたらしい同僚達に笑われていた。


職場に初めて、カイトを連れてきたのは、園庭の枝に新緑が芽吹く頃で。

初めは歌の時間だけ、の筈が
いつの間にか子供たちにも大人たちにも馴染んでしまった。

カイトの持つ歌声も雰囲気もそれだけで、周囲を穏やかにさせるのに。

そのことに、本人だけが気づけない。

だから。

「俺、役に立ってますか?」

カイトはいつもそればかりを言う。
その度に、息苦しいようなやるせない気持ちになる。

カイトの中で自分の価値は未だ、役に立つか否かの二択しか無い。

「みんなカイトが好きですよ」

「…そう、ですか」

困ったようなはにかんだ顔に、切なさが増して誤魔化すための笑顔を作った。

フロントガラスに落ちた紅葉が秋風に舞い踊る。
去年の今頃、このコがどこに居たのかを俺は知らない。

巡り合わせが悪かったんだと、思う。誰の所為でも無く。出逢いの良し悪しはタイミング次第だ。

簡素な説明で知人から譲り受けたボーカロイド。
知人はまた別の知人から。

俺が3人目のマスターだと、告げたカイトは微笑んでいて。

全て受け入れてるようにも、何か覚悟してるようにも見えた、けど。

ひととの関り自体を諦めては居なかった。

「帰りましょう。シートベルト、つけて」

「はい」

今、カイトに抱く感情が、同情なのか親愛なのか色めいたものなのか、その全てなのかどうか。

ただこのコの健気さが愛しくて、大事にしたくてどうしようもない。

そこに居るだけで注がれる愛情もあるのだと、解る日が来たらいいと思う。

走り抜ける並木道は、コマ送りの様に鮮やかな朱色を残像に変えて。

「紅葉、すごいですね」

サイドミラーに映るカイトの表情に色を乗せる。

「雪が積もっても綺麗なんですよ」

今年は降るだろうか。
春になったら園庭の桜だって凄い。
巡ってまた鮮やかな新緑が芽吹く。

見せたいものはいくらでもある。

「楽しみです…」

「うん」

どの季節になったって帰る家はひとつなんだと、いつかこのコが気付けばいい。

共に過ごす日々の中で。


end
募マス箱より「敬語+眼鏡キャラ。20代後半〜30代前半。包み込む様な優しさを持つ。カイトが可愛くて仕方ないけれど自分の気持ちがカイトの負担になってはいけないと、気持ちを押し隠している保育士」マスターでした。
あー!眼鏡忘れてた!の、脳内保管でお願いしますみませー!わー!てんやわんや
寄付して下さった菅様へ捧げます。ありがとうございマスター!^^

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