落ちる堕ちる
俺のマスターは、熱中すると時間を忘れるひと。

らしい。


「マスター…」

明日仕事ですよね?
あ、もう0時過ぎてるから、今日、じゃないですか。

「もー少しで出来そうなんだ…」

背後のベッドから声を掛けると、振り向く事無くマスターが言う。

マスター曰く、作曲の神が舞い降りた!らしい。

仕事から帰るなり、食事も片手間で済ませたままずっと電子ピアノに向かってる。

その曲、俺に歌わせてくれるんですよね?
嬉しいです。すごく。嬉しいですけど、心配なんです、マスター。

人間は、ちゃんと寝ないとダメなんでしょう?

前に、どうダメなのか分からないって聞いたら、
マスターがちょっと考えて『機能が停止する』って言ってた。

機能が停止っておおごとですよ、マスター。

帰ってきて上着を脱いで、ネクタイを外しただけ。
白いシャツの背中を眺めて考える。

止めるべきかな。でもきっと邪魔するなって怒られる。
それはやだな。嫌われたら、やだな。

ピアノの音。優しくて頭の中がぼんやりしてくる。

まだ出来てないけど、もう。
好きです、その曲。
マスターの作る曲、好きです。

「マスターが、好きです…」

「…寝惚けてるのか?」

いつの間にか横になってた自分にぼんやり気づいて、
いつの間にかこちらを向いてたマスターがちょっと困った様に笑ってた。

「眠いならちゃんと布団入れ」

「…眠く、ない、です…」

「眠い奴ってみんなそう言うよな」

くるくる回る椅子から立って、マスターがこっちに来る。
やっぱり困ったみたいに笑ってる。

俺、困らせてますか。
からだ、起こさなきゃ…

そう思うのに思うように動けずにいたら、髪を梳かれた。

うわ、それ、すごく、

「きもち、い、ですマスター…」

口元を抑えたマスターが何か、言おうとして息を呑むのを。

閉じかけた視界の中でぼんやり眺めた。

忘れてた時間、思い出したのかな?…出来ることなら。

俺のことも、忘れないで下さい、ね…

それを思ったのか口にしたのか分からないけど、
再び梳かれる髪が気持ちよくて瞼が落ちた。

「…おまえ、それ、反則だろ…」

マスターのなぜか掠れた声音と共に。


end
(寝)落ちる(カイトに)堕ちるマスター(・v・

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