転機の天気
面倒事が大っ嫌いだ。

と、自覚したのは物心ついたときからで。

それからと言うもの、なるべく楽な道を選んで来た、筈の俺が。

なんで、一番面倒そうな、
KAITOを選んだのか自分でも理解し難い。

けど。

その歌声は、初めて聴いた時からずっと、耳に残ってた。

限られた自由で、のびやかに、カイトは歌う。



「…ど、どうでしたか?」

「まぁ、いいんじゃない」

期待と不安で揺れる瞳に、特別感情を籠めるでもなく答えてやると、明らさまにほっとした顔をする。

それを視界の隅に留めて、今し方歌わせたばかりの自作曲、多少弄ってから動画に上げた。

今日も投稿時刻は午前8時。
俺と同世代の奴ならば、今頃は登校時刻だ。

なんて過ぎった考えに少しの自嘲で、
画面を見すぎて疲れた目、一度閉じて息を吐いて。

椅子ごと振り返ると、そわそわと何か言いたそうなカイト。

「…好きに使って、いいよ」

「わあ、ありがとうございますっ」

PCの席を譲った途端思った通り、ぱっと晴れる表情に苦笑した。


他人の感情程、煩わしいものは無い。
分かっても分からなくても面倒臭い。

それに疲れて、一日をこの部屋で、
迎えて終える様になったのは、いつからだったか。

もう思い出す気も無いのに。

ボーカロイドとは言え、
感情も表情もあるカイトと過ごす時間は不思議と苦にならなかった。

はっきりと口に出すわけじゃないのに、
カイトの考えてる事は何となく分かる。分かっても嫌じゃない。

それが何でなのかは分からないけど。


「マスターの曲、好きなひと沢山ですね」

PCを弄ってたカイトが、画面を流れる文字を眺めて。

「嬉しいです」

言葉通りの顔をする。

「…俺の曲、じゃなくておまえの声、じゃないの」

寝転がったベッドから捻くれた返事をしても、その笑顔は曇らない。

「マスターの作る曲は優しいから」

俺も大好きですよ、と降る声音の方がよっぽど、優しい、と思うのに。

「…どうせ俺の作る曲は易しいですよ」

口をつくのは至って皮肉だ。

「もーマスターは直ぐそうやって素直じゃない」

眉を下げたカイトが呆れた様に笑うから、それにつられて少し笑えた。


結局、一番面倒臭いのは、俺自身で。
それに気づいてから、自分で自分が好きになれない。

なのに、こいつは俺のことを好きだと言う。


「この曲、聴いてる人たちは、マスターがどんな人か知らないんですよね」

「…そりゃそうだろ」

俺だけが知ってるのも嬉しいですけど、と前置いたカイトの声が上擦って。

「もっといろんな人に見せびらかしたい気分ですよ」

泳いだ視線に苦笑した。

カイトの案に篭る遠回しな要求はいつも最終的にそこに向かう。

本当はその気持ちを、俺は良く解ってしまう。

俺だけが聴ければいいと作ってきたこいつの歌声。

この部屋に留める惜しさに、結局は聴衆へ晒しているのだから。


こいつが、俺と同じ事を望んでいるなら、もう一度。

いろんなもの、ちゃんと見てみようか。

「…明日、もし晴れたら」

「!!は、晴れますよ!!」

「…まだ何も言って無い」

全て伝えきる前の断言に笑って眺めた窓の空は快晴。


きっと明日も明後日も。
曇りない気持ちで、そう思えた。


end
募マス箱より「高校生。引きこもり中。ニコに投稿。評判はよい。性格は不器用。口下手で常に眉間に皺。学校復帰を考えてはいるが不安が拭いきれない。カイトはマスターを助けようと模索するが、その度失敗。ヘタレだから←でもそんなカイトに元気づけられる」マスターでした。
かなり端折ってしまったすみません!でもうち、がんがったぜ…!笑
寄付して頂いた稜様に捧げます。ありがとうございマスター!^^

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