どきどき
『カイト!窓開けてベランダ出ろ!』

子機を片手に掛けるべきか否か迷ってた矢先の着信に驚いて。

遅れた俺の『もしもし』より先に届く聴きたかった声。

ほっとしたら力が抜けて思わずその場にへたり込んだ。

「マ、マスター!良かった今掛けようと思っ」

『いいから!窓開けろ!』

「あ、はい…っ」

再度の催促に慌てて腰を上げる。

でもホントは窓側に近づきたくないって思った途端、また外で鳴る胃に響くような轟音。

唐突に始まったそれはさっきより間隔が狭まってる気がして怖い。

「な、何が起こってるんですか…」

竦む足を叱咤して言われるままに開いた窓の夕闇遠く。

『花火!始まった!』

染め彩る大輪に、またしてもベランダで腰が抜けた。
眼下の歩道から振られる手。苦笑したマスター。


「あー間に合って良かった〜」

ベランダに茣蓙を敷いて並べたお酒と肴。

俺にはアイスをくれたマスターが2本目の缶ビールに手を伸ばすのに笑って。

「こういうのなんて言うんでしたっけ…」

「風流?」

「そうだそれですねー」

眺める空を凪ぐ夜風に混じって闇に舞い落ちる火の粉。
届くはずは無いけれど微かにも火薬の匂いがしそう。

「さっき腰抜かしてたくせに」

朱色の閃光に照らされて笑うマスターの頬も赤いから。

「だ、だって初めて観たんです、よ花火…」

今俺の顔が本当に熱くても分からないはずって、思ったのに。

「そっか」

伸びて来た掌に頬を撫でられて誤魔化しようも無くまた上がる体温。

「なん、で嬉しそうなんですか…」

「初めてを奪うのって愉しい」

「!!」

どこか色を含んで返る笑顔に何故か、かぁっと耳の先まで火照って。

「…あ、俺、あの、ビ!ビール取って来ます、ね…っ」

慌てて腰を上げた背後でマスターが、まだあるけどって笑った気がしたのは、

今も鳴り響く花火より煩い心音に邪魔されて聞こえなかったことにした。


end
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