いっぱいいっぱい
気まずい沈黙が辺りを満たしてどの位経ったか、なんて。

多分ものの数分なんだろうけど、やけに長く感じたりして。

膝に乗る自分の両手が滲んでは濡れていくのをぼんやり眺めてたけど。

丁度落ちてきた鼻水を啜る為にも、顔を上げた視界に入るマスターの背中。

そこで気づいた。

点けっ放しのテレビ、観てる風でもあくまで風、で。

「…あ、のマスター」

「…なん、だよ」

怒ってるのかと思ってたけどそれも。怒ってる風、だった。

こっちを振り返りはしないけど、ちゃんと来た返事に少し笑えて。

目の淵に溜まったままだった涙を拭ってついでに鼻も啜る。

そうだ、このひとは売ってない言葉まで買ってしまうひとだった。

何度も繰り返してるのに毎回、俺が真に受けるから。
毎回そうやってマスターを困らせちゃうんだ。ああもう、俺の馬鹿。

とは思うけど、でもやっぱり、でもマスター。

「嫌いって言ったの嘘、ですよね…?」

「…っ」

ぴく、と動いた肩に次いで、少し。マスターが振り向く。

思った通り困ったような怒ったようなその表情に、前言の後悔を確信して。

やっと安堵の息を吐けた。

「…汚ねぇ、なぁ」

…汚い、って言ったのに。
近づいてきた指先が俺の鼻をぎゅ、と摘んで。

「垂れてる」

片眉を下げたマスターが少し笑うと、今度はちり紙を鼻先に押し付けられる。

「す、みません…」

顔から火を噴くって形容を初めて理解出来た気がした。

「…あんなの、いちいち泣く程のこと、かよ」

あんなの、が。
さっきの、おまえなんか嫌いだ発言だとしたら、充分過ぎると思い、ます。

だって本当に嫌われたとしたら、どうしたらいいか…

って俺の黙考に気づいたのか、

「別に、…嫌いじゃ、無い」

明後日を見たマスターがどこか言い難そうに口篭る。

「…嫌いじゃ、無い」

「…ああ」

反芻するとちらりとこちらに戻る視線。

「じゃあ…すき、ですか?」

「…おまえ、なぁ」

「俺は好きです、マスター」

ふいと逸らされた横顔に、大好きです、と思わず付け足す。

「ああもう、おまえ、へらへら、すんな鬱陶しい」

「鬱陶しい、は酷い、です」

マスターの言う、へらへらかどうかは分かんないけど。顔が緩んで仕方ない。

だって。

「じゃあ、うざったい」

「もっと酷いですよ」

顔を顰めたマスターの耳がどんどん赤く染まるから。

俺の耳まで熱い気がした。


end
募マス箱より「高校生で不良ぶってるピュアボーイ」マスターでした。
か、辛うじてツンデレちっくにはなった、かと!
寄付して下さった貴方様へ捧げます。ありがとうございマスター!^^

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