迷走!迷走!
「カイト!今どこだ?!」
携帯越しに声を上げて、人混みを抜ける。
『え〜っと駅の地下です。お店が沢山ある…』
俺の現在地も駅の地下で、店は沢山あるんだが。
それよりも心なしか返って来た声に元気がない、気がする。
ああ、もう何だってこんなに人がいるんだ。
カイトがびびるじゃないか。
って平日の夜じゃ当たり前か。それも金曜の。
世知辛い平日を戦い抜いて浮き足立った人々が、明日の休日前夜祭とばかりに。
大人しく家路に着かず、飲み歩いたりなんだりしてるわけだ。
まぁまさに俺もそのひとりになる予定なんだが。
たまには外食もいいか、とカイトに声を掛けたのは今日の朝。
食事といえば冷菓しか食わないカイトが、意外にも手放しに喜ぶものだから、溜まってた仕事も最速で始末した。
が、現実は甘くない。結局残業になり。
早く駅に着いてたカイトに時間を潰させてしまったわけだ。
「なんか近くに見えるものとか無い?」
『うう、え〜っとケーキ屋さんが…その向かいが喫茶店です』
情報を得て、ああ、あの辺りかと思いは、する。
するんだけど…辿り着かない。
「すまん。俺の方維持尺狂ってる」
『…いつもじゃないですかマスター』
早く来てください…と続いた声がなんか涙声なのは気のせい、だよな…
「すぐ行くから!動くなよ?」
『俺が行った方が早いんじゃないですか…』
「…俺もそう思ってきた…」
『…今どこですかマスター』
再会は10分後。
腕時計と携帯を気にしつつ、眺めていた人混みの向こうで大きく手が振られる。
いつものカッコじゃ目立ちすぎるから、と外出時に貸し出す俺の服が見えた、
「マスター!!」
「お、わ?!」
と思った瞬間には首に飛びつかれ危うく後ろの通行人とぶつかりかけた。
「お、ま…っ急に走るな!」
俺の肩口、これまた貸し出してるキャップの下で隠し切れない深い青が揺れる。
しがみ付いてくる身体を引き離せば、目が合って。
やっぱり深い青が滲んで揺れた。
「なに、泣きそうな面してんだおまえ」
「うう…もう会えないかと思いましたよー」
「…んな大袈裟な」
「笑うなんて、ひどい、です…っ」
あーもう。
だめだ、可愛い。
手放しに、可愛いと思ってしまう。
こんな、人が大勢行き交う中で、こいつが、一番、とか…。
「もう俺、人生の方向も音痴かもな…」
「何、言ってんですかマスター…」
涙の乗った睫を揺らすカイトの頭をキャップごと強引に撫でて。
悪目立ちしすぎてしまったこの場からの退場をすべく、その手を引いた。
end
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