step by step
「おまえさぁ…」

買って来たコンビニ弁当にアカイトが溜息をついた。

「飯作ってくれるような女いねぇの」

「…いないよ今は」

「今は」

余分だった言葉に少し後悔して、取られた揚げ足に少し笑った。


「…食べる?」

余りにもこちらをじっと見られるものだから。

箸で摘んだ唐揚げをその口先に持って行くと真っ赤になったアカイトが、いらねぇよ!と顔を逸らす。

「…大体、誰か居たらおまえに好きだって言わないだろ」

気づいたのは少し前。
気づいたら伝えてたのは昨夜。

「…居ないから言ったのか」

また揚げ足。

苦笑で腰を上げて、空になった容器とグラスを手にキッチンへ向かう。

「おい、逃げんな」

背後からついてくる気配に、気づかれない程度の溜息をついた。

「逃げてないよ」

そうやって離れると近づいてくるくせに、
こっちから近づくと逃げるのはおまえだろ。


アカイトとの生活を何かに例えるなら、
庭先に紛れ込んだ野良猫との関係に似てる。

距離を保って見守って。
ここは安全だと思い込ませて漸く。

徐々に詰めたこの距離を、
一時の衝動で無下にするなんて。

出来るわけが無い。


「そんなに警戒しなくても、直ぐ手出したりしないから」

安心していいよ、と言った傍から、一瞬呆けたアカイトが耳まで染めて。

「…だ、だだ誰も、んな心配、してねぇっ!」

顰める顔に、前言を撤回したくなった。

案の定、逃げるように踵を返すその背を苦笑で見送る。

下手に煽られる位なら、伝えないほうが良かったかもな、と。

早過ぎた先制に遅過ぎる後悔をした。


end
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テーマ「人外ファンタジー」
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