叶わない敵わない
『あたま痛いから少し寝る』

とか何とか言ったマスターがソファに転がって数十分。

起きてるときは鬱陶しいとか思うのに、静かになるとこうも暇なものか。

止まない雨が窓を伝って奏でる音に耳を澄まして。

相変わらず眠ったままのマスターをぼんやり眺めた。

全て分かってる風な癇に障る瞳は開く気配も無く。
何だかんだとこちらの揚げ足を取る口も今は静かだ。

時折上がる寝息に一々警戒して、それでも視線は逸らせずに居る。

「雨で偏頭痛ってどんだけ柔なんだ…」

いつか弱点を暴いてやろうと思っていたのに。
いざ知ってしまっても嬉しくも何ともない。

どころか、妙に落ち着かない。

…まさか、このまま、起きない、なんてこと。

いつもより血の気の失せた顔色にこちらの体温も下がる気がして。

「う…ん…?アカイト?」

気づいた時には揺すり起こしていた。

「なに、どうした?」

「…どうも、しねぇよばか!」

起こされた途端に罵倒を浴びても、数度瞬くだけで。

怒りもしないマスターが柔らかく苦笑する。

「あー…なに、心配してくれたの」

癇に障る瞳の色は相変わらず分かった風で。

何度止めろと言っても頭を撫でてくる掌はいつも通り鬱陶しい。

ここで何を言っても笑って流されるだけで、
俺に勝ち目なんて無いってことを本当は分かっている。

いつもの笑顔に安堵してる時点で、もう。

「…しちゃ悪いかよ」

「うん?」

「しんぱい、しちゃ、悪いかよ!」

言った瞬間かっと顔が熱くなって、珍しく驚いた顔のマスターを見ても居られない。

「ちょ、待て、アカイト!」

「うっさい来るな!寝てろ!」

早々と逃げに回ってリビングのドアを開けようとした矢先、
片膝をついたマスターが額を押さえるそれにやられた。

「〜…っだから、寝てろって」

思わず近寄って屈んだ途端、

「捕まえた」

「な…っ」

嫌な笑顔で捉まれた腕に状況を悟っても遅く。

「さて、もっかい言って貰おうかな」

「〜っ」

やけに愉しそうなマスターを前に、今に見てろと願っても思っても。

叶いそうも敵いそうもない。


end
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