はなしは、なし。
マスターはとっても無口なひとだ。
口数もそうだけど、感情をあんまり表に出さないひと、だから。
観ても無いテレビの音に救われて、無音にならずに済んでる室内は、いつものことで。
この家に来たばっかりの頃は、このシンと静まるわけでもない、微妙な空圧に迫られて一方的な会話を繋いでた。
マスターの返事は、「ああ」「いや」「そうか」の大体どれかで。
それは今も変わらないけれど。
マスターは俺のこと否定したりはしないから。
こういう空気もあり、なのかなって思う。
けど。
対角に座ったこの距離。
合わせ様としなければ、視線だって合わない。近いのに、曖昧な位置。
姿勢を変えるマスターの些細な仕草に反応したりして。
ローテーブルに並んだマグカップ、珈琲の残量を気にしたりして。
糸口を探してる。
俺はもっとマスターと会話がしたい。
マスターのこともっと知りたい。
何が好きで、何が嫌いで、どうしたら。
俺のこと、もっと必要としてくれるんだろう。
俺は本当に、ここに居ていいの、かな。
「…カイト」
「は、はい!!」
唐突に呼ばれて危うく珈琲を零しかけた。
びびびっくりした!びっくりした!あ、あぶなかった。
「あっ珈琲もっと飲みますか?あ!それとももうお休みに?あ、明日も朝早いんですか?ああそうだ帰りは…」
一気に捲くし立ててから、しでかした、と思う。
マスターの視線が、俺から少し逸れるから。
居た堪れなくなる。
ああもう俺の馬鹿!なんでこうなんだろう。
「す、みません…」
せっかく話しかけて貰えた、のに。
何度も繰り返してる後悔に、視界が滲むのを何とか耐えて。
いつの間にか落ちてた目線を元に戻してから、びっくりした。
「…マスター…?」
笑ってるとこ、初めて見た。
大袈裟なものじゃなくて、片眉を落す程度の苦笑に近い微笑、だけど。それでも、俺は嬉しい、のに。
「…あんま変な気、遣うな」
「なん、ですか、それ…」
逸れてた視線が俺に戻って。
「俺はカイトが居れば、それでいいと思ってる」
ゆっくりと落ちた声音に今度は耐えられなかった。
そんなこと、言って。
そんなこと、言われると。
「…俺、あの、すごく良い様に解釈、しちゃいます…」
「すればいい」
どんどん滲む。部屋も、珈琲も、マスターも。
手を伸ばせば届くこの距離の縮め方を、俺はずっと考えて考えてぐるぐるしすぎて何も出来ずに居たのに。
「そんな簡単に、ずるい、です」
溢れる傍から拭われていく水滴は、
マスターの体温が混じるだけでこんなにも熱い。
「そうか」
「そうです、よ」
困惑気味な笑顔のマスターも、多分同じカオしてる俺も。
それ以上何も言わなかった。
けど、もう。何も要らないと思った。
欲しい言葉は貰ってしまった。
end
募マス箱より「無愛想だけどものっっすごくカイトを愛しちゃってる」マスターでした。
ものっっすごさが表現不足でしたか、ね!
寄付して下さった貴方様へ捧げます。ありがとうございマスター!^^
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