セーブセーフ!
「今日は負けません、よ!」
洗面台からキッチンへ向かう際、どこかの部屋から確かに聞こえたカイトの声。
それが何に対してか誰に対してか解明するには時間も無く、出社したのは今日の朝。
帰る頃にはそんな事すっかり忘れてたけど。
「ままままますたー!」
ソファで何故か正座して、顔を赤くしてるカイトを見てたら唐突に思い出した。
「ど、どうした?」
「ああ、あのですね、あの…っ」
「うん。とりあえず、落ち着け」
「は、はい、あの、あのですね。その」
「うん。落ち着け」
根気よく同じやりとりを繰り返すこと暫し、
意を決したのかカイトがひとつ深呼吸して。
「失礼します…っ」
こてん、と俺の膝に頭を乗せてきた。…うん?
「…あ、あの、癒されました、か?」
自分でやっといて耳まで赤いカイトの台詞に漸く解ける今朝の謎。
「ま、マスター??」
いつもなら、いつの間にか膝に乗ってる愛猫が今日は居ないこととか。
確かに、そんなにゃん様に癒されるなぁって言ったこととか、から察するに。
今朝の宣言は、そうか。
「ちょ、え?なんで笑うんですか」
「おま…猫に宣戦布告、すんな…っ」
笑ってるはずなのに同時に泣きたいような、ああ、参ったな。
いろんなものが込み上げて胸が詰まった。
羞恥に耐えかねたのかカイトが身体を起こそうとするのをやんわり制して青い髪を梳く。
「癒されたからもう少しこのまま居て」
「…っあ、あの、なんか、俺、すごく恥ずかしくな…っ」
「あ、耳掃除してやろうか」
熱い耳に触れて思いついた提案は、
「そそそんなの、されたら、俺、死にます…」
即座に却下された。
…あーもう。
ホント、どうしてくれようこいつ。
大袈裟な赤面に苦笑して、邪な感情を流そうと努力していた俺に。
部屋の隅から咎めるような視線が刺さる。
だ、大丈夫。何もしない、筈…
と返した曖昧な弁明に、呆れたような声音で鳴いたにゃん様は、優雅にどっかへ去ってった。
end
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