拠る夜
照明を落とした室内は酷く暗く。

手探りで点けたライターの炎がちょっと蛍みたいだ。
冷蔵庫に寄りかかって吐いた紫煙は闇に紛れる。

アカイトは我儘で気まぐれなところが可愛いと思う、
からそれをどうこう言うつもりは全く無く。

一方的な文句を喧嘩と呼ぶなら毎日のように繰り返されるその行為は、

大概、笑って宥めて機嫌を取る三段活用の元解決してたのだけど。

今夜はちょっと趣向を変えて。

『マスターなんかどっか行っちまえ!』

と言われた通りどっかに行ってみた、結果がキッチンカウンターと流し台の狭い隙間なのに自分で笑える。

けど、これはこれで隠れんぼっぽくてちょっと楽しい、とか。年甲斐も無く思って。

今、闇に映える火種のように真っ赤な顰め顔を思い出す。

きっと今頃、後悔してるんだろうなーと暢気に思った時丁度、遠くのドアが開く音。息を潜めた。

「…おい」

居るんだろ、と小さく聞こえた声音は余りにも頼り無い。
出て行きそうになる衝動を地味に耐えてみる。

「…マスター」

またどっかのドアが開く音。

「…っマスター」

今度は閉まる音。

「へんじ、しろ…よなっ」

あ、泣いた。
震える声が静寂に響いて、苦笑する。

さてどうやって出て行こうか、なんて出来た思案は数秒で。

「ますた、の、阿呆…」

「おい、だれが阿呆だ」

「!!」

反射的に返してから、しまったと思っても遅く。

遠くの空気が一瞬止まって、躊躇いがちな足音。

「〜…っな、にやって…っ」

あーあ。見つかっちまった。

静暗で視線が合う。濡れた瞳。
溢れるかな、と思ってるうちに一粒、落ちて。

「ば…っかじゃねぇ、のっ」

しゃくり上げる声が響く。ああ、もう。

「ばかはおまえだろー」

抱きつかれた肩口がじわじわと濡れていくのに笑った。

我儘も、気まぐれも。
見放されない、と思う相手だから出来るものだ。

警戒心も、自尊心も強いこいつが、俺のこと信じてるなら。

甘えたいだけ甘えればいいと思う。

けど、たまには。

目に見える方法で、必要とされてるのを実感すんのもいいかもしれない。

しがみ付かれたままの首よりも胸の奥が苦しくなったりした。


end
このふたりはこっちにも出張してます
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