もっと、もっと。
「ちょっと確認していいか」

目の前の涙目にすこし近づいたら同じだけ、後ずさられる。

思わず落ちた溜息にカイトの肩がびくりと揺れた。

「マ、スター…あの、怒って」

「無いよ」

怒っては、ない。から。

「取りあえずその、びくびくすんの、止めてくれ」

「は、い…す、みません」

って言っても震えてる肩は見ないことにして話を進めよう。
幸い、カイトの後ろはもう壁だ、逃げ場がない。

「おまえさ俺のこと、好き、なんだよな…?」

「は、はい!すきですだいすきです!マスターもマスターの作る曲も好きで好きでもうこれは愛と言っ」

「もういい、わかった」

力説ありがとう。

「あ、ぅ…はい」

なんだその語り足りないって顔は。でも、だったら。

「何でさっきから逃げるんだ?」

「まっますたーが、キ、キ、キキキ、スし…っ」

お、落ち着け。
それ以上体温上げるとショートすんじゃ…

「嫌?」

聞いた瞬間真っ赤な顔をぶんぶん振られる。左右に。

「矛盾」

「だ、だだだってあの、俺、だめなんです…」

毛足の長いラグをぎゅっと握る指が可愛い。
泳ぎがちな瞳は未だ水分を含んで、
真っ赤な顔で震える様はなんか小動物っぽい。

ああ、これが据え膳ってやつか、なんて馬鹿なことを思う。

「だめ、って何が」

自分の声か疑う位甘ったるい声が出た。

「…っこ、呼吸が上手く出来なく、なるし」

「うん」

指を伸ばした頬の熱さにこちらの胸も熱くなって困る。

「あたま、がくらくらする、し」

「うん」

緊張を煽るのが分かってて、少しずつ近づいて。

「しっんぞうが、いたく、な…っ」

唇が触れる距離に来た頃既に、閉じてる瞼にキスをした。

ゆっくりと大事にしたい感情はいつでもあるのに、衝動は日に日に増してる。

今日はどこまでで妥協できるか、なんて不埒な事を考えながら口を塞いだ。

本当は早く、こいつの全て、奪って暴いてしまいたい。


もっと、もっと。


end
このふたりはこっちにも出張してます
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