宇宙で一番大好きです。


夜空を埋め尽くすばかりのお星様たちは、きらきらと輝いていて、まるで僕とハルちゃんだけを照らしているように見えました。


「綺麗なお星様がいっぱい見えるでしょ?」

隣に座ってお星様を見上げるハルちゃん に、そう尋ねると、ハルちゃんはにこっと微笑んでくれました。

「すごく綺麗です。こんな素敵な景色……今まで見たことがありません」

嬉しそうに話すハルちゃんは、なんだか少しだけ寂しそうに見えて、そんなハルちゃんに元気になって欲しくて、後ろからぎゅーっと抱き締めた。  

 そうしたらハルちゃんは、なんだか少し恥ずかしそうに、俯いているみたい。
ふふっ、そんなハルちゃんもすっごく可愛いです。

でも……やっぱり心配だなぁ。 


「 本当は、ずっと誰にも教えずに僕だけの秘密の場所にしておこうと思ったんですけど……一人で知ってるよりも、ハルちゃんと僕、二人で知っている方が素敵だなぁって思ったんです」

「そんなに大切な場所なのに、私なんかに教えてよかったんですか?」

“私なんか……”
ハルちゃんは時々その言葉を使う。

もっと自信を持ってもいいのにな。
この言葉を聞く度に、少しだけ切なくなる。 

 「……ハルちゃんだから教えたいって思ったんです 。僕一人で知っているのは勿体無い、ハルちゃんにも知って欲しいって、そう思ったから」

僕はそんなハルちゃんに胸を張っていて欲しい。そう思うんです。

例えあなたが自分を否定したとしても、僕は 必ずあなたの味方であると、心からそう言いたいんです。



「そんなふうに言ってもらえて、すごく嬉しいです!  こんな素敵な場所を私だけに教えてくださって、ありがとうございます! 」

「ふふっ、喜んでもらえて嬉しいです」

だって、あなたの笑顔はこんなにも美しい。 
僕はいつも、あなたの笑顔に元気をもらっているんだよ。
本当は、そのことが伝えたくて今日、ハルちゃんにこの場所を教えたんです。 
 
その気持ちが、伝わるといいんですけど……



「僕はいつも、一人でこの場所に来ていました。お星様から詞のアイディアをもらうときや、どうしようもなく寂しい気持ちになったとき……どんなときでもお星様は夜空から僕を照らし、導いてくれました」

「でも、今は違う。そのお星様の役目は、ハルちゃんが受け継いだんです」

「ハルちゃんは僕にとってお星様みたいな存在 なんです。

いつでもどこに居てもハルちゃんは僕を照らしてくれる。
困ったときは僕を導いてくれる。


それに……ハルちゃんを思えば不思議とたくさんの詞のフレーズが浮かんでくるんです。

今でもノートに書き切れないくらい。僕の心の中にはたくさんの言葉の欠片があって。
その全てを掬い切れないのが名残惜しいくらい……
僕の心の中は、たくさんの感情や言葉の欠片で満ち溢れています。


今までは、どうしようもなく寂しいときがあって、そんなときはお星様を見上げて元気をもらっていたけれど、今は違う。
隣にハルちゃんがいれば、寂しいことなんてなにもありません。

あなたが傍に居ると 、とても安心できるんです。

ハルちゃんは、今までお星様たちがしていた役割を一人で全て受け持ってくれる。
僕にとって、とても大切なかけがえのない存在なんです」


「だから……どうか、一人で悩まないで」

真っ直ぐにハルちゃんの瞳を見つめる。

僕の想いが伝わりますように……そう願いながら。 

 

「… 那月くん」

小さな声で、ハルちゃんは僕の名前を呼んだ。
その声が堪らなく愛しい。 

だから僕は、ハルちゃんをぎゅってする力を少しだけ強くする。 


「ハルちゃんが一人で悩んでいるのを、黙ってみているのは、とても辛いです」

僕ばかりがハルちゃんに助けられて、僕がハルちゃんに何もしてあげられないのは、すごく悲しい。

……僕もハルちゃんの役に立ちたい。


 「僕は知ってるんです。ハルちゃんが、前からずっと元気がなかったこと。それなのに、なんて声を掛けてあげたらいいか分からなくて……情けない僕は、またお星様に頼ってしまったんです」

……こんな僕でごめんね。
僕は、ハルちゃんをぎゅってしてあげることしかできない。
そんな自分がとても情けなくて仕方がない。


「……那月くんは情けなくなんてありません」

優しいハルちゃんは、自分が一番辛いのに、それでも僕を励ましてくれる。 

ごめんね……。頼りない僕でごめん。

「 本当に情けないのは、私なんです」

そう呟いたハルちゃんの声は、涙に震えていた。
……泣かないで、ハルちゃん。
僕はハルちゃんの頭を優しく撫でる。


「どうして、そんなこと言うの?」



僕が尋ねると、ハルちゃんは、ゆっくりと話し始めた。

「私……自分の曲に自信が持てないんです。本当に今作っているものでいいのか。もっと那月くんに合う曲があるんじゃないかって、考え出したら、どうすればいいか分からなくなって」

震える声で話すハルちゃん。
啜り泣く声。零れ落ちる涙。
……ハルちゃんを守らなきゃ。励まさなきゃ。

僕の中に強い意志が生まれて、気づきたらハルちゃんを、今度は前からぎゅーっと抱き締めていました。


「……僕はハルちゃんの作る曲が大好きです」

頬を伝う涙を指で拭い、もう一度頭を撫でる。


「ハルちゃんの曲に僕は救われたんです。ハルちゃんの曲があったから、今の僕が居る。
僕の曲を作るのは、ハルちゃん以外考えられません。
僕が心から歌いたいと思ったのは、ハルちゃん……あなたの曲があったからです」

 真っ直ぐにハルちゃんの瞳を見つめる。潤んだ瞳からは涙が絶え間なく溢れ出して……

僕の指は何度もそれを拭う。

「……だから、自分の作る曲に自信を持ってください。
あなたの作る曲は、世界で一番……いえ 、宇宙で一番素晴らしいんですから」


何度も何度も、小さな身体を抱き締める。
僕がどれくらいハルちゃんの作る曲が好きなのか、しっかり伝えるために。



「那月くん……ありがとう……ございます」 


「私……自分の曲を、こんなにも好きって言われたの……初めてで……なんて言ったらいいか分からなくて」 

「今……すごく嬉しいです」 

涙でいっぱいの目で、ハルちゃんは微笑んだ。 
よかった。やっと心から笑ってくれました。

「僕も嬉しいです。あなたが心から笑ってくれて」


ハルちゃん……。
僕はあなたが作る曲が宇宙で一番大好きです。

誰がなんと言ったって、僕はあなたの曲を歌い続けるし、愛し続けたい。そう思うんです。


 






――だから、どうか……
いつまでも僕の隣で笑って居てください。




2012.1.19 








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