髪に触れる


風呂上りのレディは、首に掛けたバスタオルで髪を拭きながら、リビングへとやってきた。
「今日はオレに髪を乾かさせてよ」
オレがそう言うと、湯上りでただでさえ赤く染まった頬をより一層赤くして、キュートな表情を見せる。


「で、でも……神宮寺さんにご迷惑は掛けられません」
「そんなこと気にしなくていいよ。それにこれはオレがしたくて言ってることなんだから」
そう言ってもレディは中々動く気配がない。
「こっちにおいで。ほら、オレの膝のところ」
にこりと笑った後にそう言うと、戸惑う様子を見せながらもゆっくりとこちらによってくる。
それはまるで、雨に濡れた子猫のように愛らしくて、思わずレディの腕を引き寄せると、後ろからそっと抱き締めた。
突然の行動に驚くレディは、最初は緊張して少し強張った様子を見せながらも、やがて張っていた肩の力が抜けて大人しくちょこんとオレの膝の上に座り、腕の中に包まれた。
そんなレディがとてもキュートで愛おしくて、さっきよりも少しだけ強い力で抱き締めた。
それから、名残惜しく思いつつも片方の腕を身体から離すと、その手で髪をそっと撫でる。



「レディの髪って、手触りがすごくいいよね。こうして触れていると、いつまでもこの指に絡めておきたい気持ちになる」
濡れた髪でも感じることのできる、しなやかな指通りは、とても心地がよくて安心する。
けど、濡れたまま放っておいたら、変な癖がついてしまうからね。
しっかり乾かしてあげないと。
用意しておいたドライヤーのスイッチを入れて、髪全体を撫でるように優しく乾かした。
ドライヤーの風が均等に当たるようにしないといけないからね。しっかり乾かさないと。
風になびく髪からは、シャンプーの甘い香りがする。



丁寧に乾かしていくと、うなじの辺りに触れた所で、レディはくすぐったくなったのか、ぴくりと小さく動いて反応を見せた。
可愛らしい反応に思わず小さく吹き出してしまう。
「レン……さん?」
突然笑い出したことを不思議に思ったのだろう。レディが首を傾げながら、こちらに振り返る。そんな仕草もキュートだなぁ、なんて思ってしまう。
「レディは誰かに髪を触られるのには慣れていないのかな?」
そう訊ねながら、もう一度さっきレディがぴくりと反応した、うなじの辺りにわざと触れてみる。
「くっ……くすぐったいです」
再び可愛い反応を見せると、レディは小さな声で恥ずかしそうにそう言った。
こうも可愛いと、少し意地悪してみたくなっちゃうよね。
「ふぅん……レディはここが弱いんだ」
「あ、あの……」
何かを企むかのように言ってやると、レディは緊張で身体を強張らせているみたいだ。
「本当にレディは反応ひとつひとつが初々しくて、とてもキュートだね」
「もしかして、からかってますか?」
そう言うレディはなんだかちょっと、怒っているみたいだ。
怒った顔も変わらず可愛いから、逆効果なんだけどね……。
「そんなことないよ。……ただ、レディがあまりにもキュートだから、ちょっと意地悪したくなっただけさ」
「やっぱり、からかってるじゃないですか!」
その言葉はドライヤーの音で聞こえない振りをして、今度は真面目にレディの髪をかわかしていく。
さっきまで水分を多く含んでいた髪は、もうすっかり乾いてきた。
サラサラとした指に馴染む感触が心地いい。さっきも言ったけど、いつまでもこの指に絡めておきたいと思うよ。でも、残念だけど、これで完成だ。
「はい、できたっ!」
明るい調子でそう告げれば、仕上げの手櫛を掛けてやる。
ブラシは使わない主義なんだ。レディの髪が痛んでしまったら困るからね。
女性の髪は繊細なんだから、丁寧に扱ってあげないとね。
「あの、ありがとうございました! こんなに丁寧に乾かしてもらったのは初めてです」
「ふふっ、こうして一度、君の髪を乾かしてみたかったんだ」
そう言って優しく頭を撫でると、レディは幸せそうに微笑む。
「こうやって、髪を撫でることはあっても、さっきみたいにじっくり触れることはなかっただろ?」
オレはレディの髪を撫でたり、触れたりすることが好きなのかもしれないな。
……こうしていると、すぐ近くにレディを感じられて、すごく安心する。
「神宮寺さんに、髪に触れられると……なんだか安心します」
「オレも今、レディと同じことを考えていたよ」


そう呟くと、今度はレディを後ろから抱き締め、耳元で囁く。
「……こうして君に触れていると、安心するんだ」




2012.1.17
レンに髪の毛乾かされてる春ちゃんじゅるりと思って書きました。
すごく後味悪いなぁ。しっくりこない終わり方だなぁ。
と思いつつもこれ、初完結作品です。一応記念すべき作品の……はず。
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