オリジナル 短編集 | ナノ






僕、漫画家諦めます

「同人作家と言っても、ジャンルは幅広く様々なものがありますけれど……
       僕は、亜城木先生の同人誌を書きたいと思っているんです!」


……亜城木先生の同人誌
その言葉が、二人の頭の中で何度も繰り返される。どういうわけか、さっぱり分からない。
「つまり、それは……俺たちの作品の二次創作をやろうっていうことかな?」
しばらく黙り込んでいた高木が七峰に問い掛けると、七峰はそう来ると思っていたんだよと言わんばかりに、得意げに笑ってみせた。そして、さらなる衝撃的な一言が彼の口から聞かされる。

「きっと普通はそう思うでしょう。しかし、高木先生。残念ながらあなたの予想は外れです」
亜城木夢叶の同人誌。しかし、それは亜城木夢叶の作品の二次創作ではない。
しかし、高木は最初から疑問であった。もしも、二次創作であれば、七峰は『亜城木先生の同人誌』とは表現せず『亜城木先生の作品の同人誌』と表現したのではないか、と。
だとすれば、いったいそれは何なのか……思いつくことは、一つしかない。


「七峰くん。それって言うのはつまり――」
「やっぱり高木先生の推理力は素晴らしいです!」
高木が言い掛けたところで、七峰はそれを遮るようにして言葉を重ねた。


「そうなんですよー。僕が描きたいのは、亜城木夢叶の作品の二次創作ではありません。そこにはPCPやトラップ、タント…今までお二人が手掛けてきた作品の中のキャラクターは一切登場しない。そこに登場するのは、作者である亜城木夢叶自身なんです。」
両手を横に広げながら、七峰は嬉しそうに話す。
「……そういうことだ。サイコー、理解したか?」
「い、いや、全然さっぱり。なんとなくしか分からない」
どうやら七峰と高木の思っていたことは合致した様子であるが、真城だけがこの思考についていけない。
「さっぱりなんとなくって、動揺しすぎて日本語変になってるぞ?」
「だって、俺たちの作品の二次創作じゃなくて、俺たち自身が登場する同人誌って、言っている意味が分からない」
真城は自分で言いながらも頭の中が混乱していた。漫画というのはキャラクターが登場するものであって作者はそれを生み出す存在。本来、影に立つべきである存在だ。しかし、七峰が描こうとしているのは作者が表立って登場する漫画。それも他のキャラクターは一切登場しない、登場するのは作者のみ。そんな物語に需要があるのか? 否、そんなはずがない。だから、さっぱり彼のやろうとしていることが理解できない。


今までの仰天発言だけでも、相当驚かされたと言うのに、七峰は次の瞬間、亜城木にさらなる爆弾を仕掛ける。




「さらに言わせてもらうと、あなた方二人が恋愛関係にあると、あくまで過程した漫画が描きたいんです」
「はぁ!?」
開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。二人の声は三度目のシンクロを迎える。
「亜城木先生。BLって言葉をご存知ありません?」
「びーえる?」
その言葉はどこかで聞いたことがある。と真城は思った。それがいったい何なのかを思い出すのに時間は掛からなかった。
「確か、俺たちの作者の二次創作にもあったよ」
高木の言葉で確信する。過去に一度、偶然見たことがあるのだ。それは確か、なんとなくネットを眺めているときであった。初めてそれを見たときはかなりの衝撃が走ったのを覚えている。しかし、自分の作品の二次創作というものを初めて見た二人は、それがどんな内容であれ、こんなふうに自分たちの作品を愛してくれている人が居るということに、言いようのない感動を覚えた。



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