オリジナル 短編集 | ナノ






僕、漫画家諦めようと思うんです

「亜城木先生! ご無沙汰しております。急に押しかけたりなんてしてごめんなさい! お忙しい中、僕なんかのために時間を取ってもらっちゃって、たいへん恐縮です!」

大事な話があるから今からそっちに行ってもいいか、という単刀直入な内容の電話を寄越して二、三十分も経たないうちに七峰透は亜城木夢叶のもとへ現れた。
久しぶりに見た、猫被りモードの愛想のいい喋り方に違和感を覚え、いったいどういう風の吹き回しなのか、どうにも疑問に思った二人であったが、ひとまず目の前の男の話を聞くことが先決だという結論で両者は合致し、今に至る。


「それで、七峰くん。大事な話っていうのは……なにかな?」

核心に迫ろうと、高木が慎重に話を切り出す。その言葉に、待ってましたと言わんばかりに、七峰の表情がぱっと明るくなるが、その表情はくるりと変わり、今度は真剣な表情へと変わる。いったいどれが彼の本心であるのかは、二人には見当もつかなかった。

「亜城木先生、単刀直入にズバリ言っちゃってもいいですか?」

二人は無言で頷くと、緊張した面持ちで、七峰の次の言葉を待った。





「僕、漫画家諦めようと思うんです」
「はぁ!?」
シンクロする二人のリアクションに七峰は、お二人はたいへん仲が良いんですねえ、と嬉しそうに笑った。
「どうして、いきなりそんなことを……七峰くんはジャンプで連載することをずっと夢に見て来たんじゃなかったのか?」
それまで黙っていた真城が、思わず口を開く。間違ったやり方でとは言っても、仮にも自分たちをきっかけに漫画家を目指したという七峰に対して、少しばかりの親近感を持っていた真城にとって、この言葉は衝撃的だった。

「そうですよね! あまりにも唐突すぎましたねー、でもどうか落ち着いて聞いてください。この話はまだ終わりじゃないんです」
「実は僕、漫画家を辞めて、同人作家になろうと思うんです」


その刹那、仕事場の中を妙な空気が流れていくのを亜城木は感じた。
「どっ、同人作家!?」
遅れたように反応はやってくる。亜城木は二人ともほぼ同時に同じ言葉を発した。これはデジャブというやつか、再び起こる二人のシンクロするリアクションに、七峰はまた、嬉しそうに微笑む。まるでそれは、二人の予想通りの反応を楽しんでいるかのようだった。
「同人作家って、七峰くんはいったい君は、何を目指そうとしているの?」
呆気に取られた様子で高木は問い掛けを投げた。
「よくぞ聞いてくれました! さすが高木先生! たった一回で核心を突く素晴らしい質問です!」
余計なちゃちゃは入れなくていいから、早く話を進めてくれ。亜城木は内心イライラしながら彼の話に耳を傾けていた。

「実はですね…… ここからが盛り上がるところなんですよ!」





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テーマ「人外ファンタジー」
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