そうして今に至る訳なのだが、どこで何を間違えたのかは分からない。ただ、今の生活は、俺が望んでいたものとは程遠いものだった。
高校生の頃は、体の関係なんか必要ないと思っていた。そもそもガキの分際でセックスなんて、実に愚かだったと中学時代の行いは反省していた。
もし、佐久間とこれからもずっと関係が続いて、大人になっても一緒にいたら、その時にはきっと佐久間のセックスへの恐怖感も改善されているだろうから、セックスを通じて愛し合うこともできるはずだ。それが俺の考えだった。
ところが佐久間は違ったのだ。改善どころか悪化した。別にまた襲われたとかそういうのではなく、本当に好きならセックスなんて必要ない、精神的な絆こそが本物の愛だという考えを貫こうとしていた。
何が佐久間をそうさせてしまったのか、俺には分からない。
大人になって再会したとき、お互いの気持ちが一致していたから、約束の通り関係は続けようということになった。ところが共に暮らしていくうちに、佐久間が高校生のときと変わらないような関係を求めて俺と一緒にいることが分かっていくと、どうしようもない不安に襲われた。
いつまでこんな生活をするつもりなのだろうか。考えただけで気が遠くなる。

俺はなにもしてこないという安心と信頼がある。佐久間は高校生のときからずっとその言葉を口にしていた。
何もしないのは佐久間が嫌がることをしたくないからであって、俺は別にプラトニックラブを肯定しているわけではない。だが佐久間は俺もセックスは必要ないと思っている人間だと信じている。高校生の頃はそんなことなかった。やはりどこかで佐久間は狂っていたのだ。
一緒に寝ているときに、俺がどんな気持ちで佐久間を見ているか。そんなこと佐久間はこれっぽっちも知らないだろう。
セックスがしたい。佐久間の秘部に自分のものをぶちこんで、思いきり突き上げて、めちゃくちゃに抱いたらきっと気持ちいいんだろうな、そんな思春期真っ盛りのガキみたいなことを毎日のように考える。本気で好きになった奴とヤりたい。愛のないセックスは味気なく、ただの性欲処理にしかならないことを俺は昔の経験で知っている。だから、佐久間とセックスがしたかった。
俺は佐久間の性交時特有の表情や声を知らない。セックスのとき、どんな顔をするのか、どんな風に喘ぐのか、見たことも聞いたこともない。そして、叶わぬ願いとはいえ、それを知りたいと思う。

「……ん」

一瞬起きたかと思ったが寝息を立てているのを見てどこかホッとした。こういうことを考えているときに、佐久間と目なんか合おうものなら心の中を見抜かれそうだ。
何でそんなこと思うの?不動、汚いよ。きっとこんな感じのことを言うのだろう。

俺だって普通の男だから、それなりに性欲はある。職業柄、誘惑も多い。それを振り払ってでも佐久間と一緒にいたいと思うのは、佐久間が好きだからだ。佐久間は子供を作らないセックスを汚いと言ったって俺は佐久間とセックスがしたい。愛し合う者同士が肉体関係を持つことはごく自然なことだと思う。
だが佐久間はそれを認めない。そんなことを言ったら、佐久間は俺を軽蔑する。一度だけもう少し関係を進めたいと、俺なりにオブラートに包んだつもりで言ったら佐久間はパニックを起こして泣き出した。不動はそんなこと言わないと信じてたのに、嘘つきだと。
あの後どうやって宥めたのかははっきり覚えていないが、確かセックスがしたいとかそういう意味じゃないだのなんだの言って適当な理由を取り繕った気がする。
あの姿はあまりにも病的で、とてもじゃないけどまともに話し合いなんてできない、そう思った。
それでも次の日には何事もなかったように普通に生活していて、俺ともいつも通り会話をしたものの、結局何も解決しなかった。
スキンシップもキスもできる。だがそれ以上は進めない。佐久間は、恋愛はしたいと言っていた。ただ、本気で愛し合うなら肉体関係を持たないプラトニックラブでなくてはいけないという信念がある。

だから俺を、セックスを求めてこない俺を選んだのだろうか

その考えが浮かぶとゾッとした。じゃあセックスをしない相手なら俺じゃなくてもいい。佐久間のような考えを本当に賛同している奴がいたら、佐久間はそいつを選ぶかもしれない。
俺は佐久間のポリシーを否定している。そのくせ肯定しているように見せて、佐久間を騙している。
それが佐久間の為だと思うから、俺は嘘をつく。それが本当に正しいことなのかなんて、俺には分からない。

艶々とした絹糸みたいな髪から甘い匂いがする。無防備な寝顔はあどけなくて可愛らしい。欲求のままに佐久間の服を捲り直接肌に触れようとした手を、我に返り慌てて止めた。そろそろ我慢も限界だ。
こんな生活をしていたら、俺はいつかおかしくなるんじゃないか。
そんな不安が胸の中に居座り続けた。