この世は嘘で溢れている。しかしそれは必ずしも悪いこととは限らない。
嘘をつくという行為は、時に相手への気遣いや思いやりの精神ですることがあるからだ。もし世の中に嘘がなければ、傷付く者は増えるし物事はスムーズにいかないのではないだろうか。



「ねー、少しくらい教えてよー」

久しぶりに昔の仲間と集まり、懐かしさから皆盛り上がっていた。俺は先ほどから左隣にいる吹雪の相手をしている。はっきり言って鬱陶しい。

「うるせーなどっか行けよ」

これは本音。こんな奴に気遣ってそんなことないよ、なんて言うほど俺は親切ではない。

「いいじゃん、どうせ佐久間君とラブラブで幸せなんだからお裾分けってことで惚気聞かせてよ、是非とも酒の肴にしたいなー」

元からこういう話が好きな上、酒が入っているせいで吹雪の絡み方は最悪だった。平気で人に寄りかかりベタベタしてくる。何が悲しくて酔っ払いの相手をしなくちゃならないんだ。

「うぜぇ離れろ!おい、誰かこいつの相手してやれよ」

そう言うと、俺の右隣にヒロトがやって来た。昔の経験から分かる。これはまさかというより確実にアウトだ。

「え、不動君話してくれないの?それは良くないなぁ。ほら、言っちゃえ!」

ヒロトも酔っていた。この面倒くさいコンビに挟まれたら絶対逃げられない。俺は深くため息をついた。
こうなったら吹っ切れるしか道はないのだ。

「で、佐久間君ってやっぱりいい身体してんの?反応いい?」

早速そっち系の質問が飛んでくる。高校の時は手は繋いだかとかキスはしたかだの、可愛いものだったが、大人になり質問の中身は濃く、それでいて下劣なものになっていた。酔っているから仕方ないのかもしれない。

「……それなりには」

「ヤってる時なんて呼ばせてる?もしかして名前!?」

「佐久間君があきおって言うの?うわぁぁぁ可愛い!」

俺を挟んで勝手に盛り上がる二人。俺いらねぇじゃんと思いながら、二人で佐久間の話をしていることに少し安心する。向こうでは佐久間が鬼道や風丸と話していた。風丸は分かる。だが鬼道なんて明日も会うのに今話すことないだろうと思う。
それなら今ここにいる俺を助け出して欲しいものだ。
佐久間を眺めているのは中々面白い。時々予想もつかないような訳の分からないことをやらかすから、見ていて飽きないところがある。
しばらく楽しそうに話していた佐久間だったが、鬼道が髪に触れた瞬間、顔色を変えてその手を振り払った。

「佐久間?」

周りもそれに気が付いたようで、冷ややかな空気が流れる。
鬼道も流石に驚いたようで、どうしたら良いのか分からないようだった。佐久間は怯えた表情を浮かべて固まっている。
またやったか。しかしこればかりは仕方ない。
俺は佐久間たちのところまで行き、

「こいつは俺のものだから、他の奴には触らせないようにって言ってあんの」

そう言った。これは半分くらい嘘。
すると吹雪たちが冷やかし始めた

「うわー不動君ヤキモチ焼きだね!」

「今流行りの束縛男子ってやつかな」

「束縛男子って流行ってんの?」

「さぁ、それより俺たちもう男子っていう年齢じゃ……」

「あーあーそれは言うな年を感じるから」

冷たい空気はあっという間にイナズマジャパンらしい熱気の中へと消えていった。俺は一安心して鬼道に忠告をしておく。

「そういう訳だから。やっぱり鬼道相手でも振り払う癖は抜けないよなぁ」

「お前はそんなことさせているのか。佐久間が目上の人にでもやったらどうするんだ」

「いつもはそんなことしないです。鬼道さんにやってしまったのはちょっと飲み過たせいだと思います。すみませんでした」

佐久間は鬼道に謝罪をした。これは全部嘘。

「いや、急に人が変わったようになったものだから驚いたよ。まぁ俺は気にしていないから大丈夫だ」

嘘は人の目の動きやまばたきの回数なんかで見抜けたりする。しかし鬼道のようにサングラスをかけられると、全然読めない。
鬼道とは長い付き合いだ。今でも相談事をしたり一緒に飲みにいくこともある。それでもいまだに俺は鬼道という人物をよく理解していなかった。
どうして友人である佐久間の髪に気安く触れるのか。そして、何故あの事を、鬼道が知らないのか。
何となく、聞いたら後悔するような気がした。








一瞬冷や冷やしたが、皆楽しめたようでまた集まろうなんて言いながら解散していった。
解散しても佐久間とは帰る場所が一緒だから、俺たちはさようならをしない。
佐久間は疲れたのか、部屋に入るなり俺に抱きついてきた。

「さっきはありがとう」

俺も佐久間身体に腕を回す。力が入っているせいで華奢な身体は固かった。

「やっぱりキツいか?」

「うん。鬼道さんに悪いことしちゃったな」

「気にすんな、お前のせいじゃねぇよ」

背中を優しく撫でてやると、佐久間はようやく力を抜いた。

「不動は不思議だね。お前になら触られても全然怖くないんだよ」

「そりゃぁ付き合い長いからな」

「それもあるけど、不動は信用できるから」

佐久間は俺をまっすぐ見つめた。
嘘も偽りもないその純粋な瞳が、俺は大好きだ。
だけど、俺はそれを直視できない。

「不動は野蛮な奴らとは違う。優しくて、温かくて」

佐久間の笑顔が時々苦しいと感じる。そんな顔、俺なんかに向けてはいけない。

「どうしてセックスなんかするんだろうな。あんな穢らわしいこと、繁殖以外に目的なんかないだろ」

佐久間は繁殖目的以外のセックスを汚いと言う。それはただの性欲処理だと。しかし俺はそうは思わない。
それでも

「不動もそう思うよね?」

佐久間にそう言われたら

「そうだな」

と答えるしかな
すると佐久間は不安げな顔をした。

「不動ってこういう話するとき、俺の目、見ないよな」

まずい。なんとか誤魔化そうと俺は佐久間の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「バカ、んな可愛い顔まともに見れねぇよ」

そう言うと、佐久間は顔を真っ赤にする。可愛いなと思いつつ罪悪感で胸が痛んだ。
人は嘘をつくとき、相手から目をそらすというのは有名な話。
俺は、これからも佐久間に嘘をつき続けるのだろうか。

今日もベッドで佐久間と抱き合うように眠った。佐久間は安心しきった表情で、身体を俺に預けている。その顔を見ながら、俺はやり場のない欲望をもて余していた。